電球少女ロボット・ルゥ(LW)

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 ネット断ちをすると言っても、たまに仕事関係の連絡も入るから、スマホ自体の電源を切りっぱなしというわけにはいかない。その日、家でひとり静かに趣味に没頭していて、着信音に気が付いた。すぎゆーからだった。 『野島、今日のニュース見たか? ネットかテレビで』 「どっちも見てないよ」 『やっぱりな。だったらまだ知らないか? 電球少女、サービス終了するんだってよ』  青天の霹靂、っていうのはこんな時のためにある言葉なんじゃないだろうか。実際、窓の外は、いつかシホと一緒に眺めたあの青空と同じ。透明感のある、雲一つない晴天だった。  悪いが電話はすぐに切らせてもらって、僕は慌ててシホを充電開始する。スマホのメールアプリを確認すると、電球少女のサービス提供会社からお知らせメールが届いていた。今後は電球少女のアップデートは行われない。サ終の日付はなんと、きっかり一か月後。  おそらく、ネット上の同好のユーザー界隈は今頃阿鼻叫喚なのだろう。僕だって、 「サ終自体はまだしも、たった一か月前に告知なんて他に聞いたことがない、早すぎる。コミュニケーションロボットを提供する会社としてあまりに情がなさすぎる。今までに何十万、継続課金してきたと思ってるんだ」  なんて、「お気持ち表明」を呟きたい心境だった。だが……。  僕がSNS断ちをしてからもう何か月も経っている。アカウントを見に行ったら、フォロワーが減っているかもしれない。もう誰も僕のことを覚えていないかもしれない。せっかく呟いても、以前みたいに皆、反応してくれないかもしれない……。  そう考えたら怖くて、とても、ログインする気になれなかった。  残された一か月、僕は「シホとしてみたいこと」を思いつく限り片っ端から試みた。今後の長い人生で少しずつやっていくはずだった計画を、たった一か月で。仕事の休みも急には取れないし、叶えられないことだってたくさんあった。  いつかシホを連れて憧れのイタリア旅行をしようと思っていたが、今からじゃあ無理だ。妥協して、行きたいと思っていた、熱海のホテルで海がよく見えるコテージを貸し切って、個室温泉に浸かる計画だけは実行する。せっかくわざわざ遠出するっていうのに一泊二日でタイトスケジュールだし、おまけに宿泊予約した日は天候が悪くてせっかくの海辺の町を満喫出来なかった。こんなに雨が降ってしまっては、ロボットのシホをうかつに外には出せないし……。  僕が子供の頃から家族旅行でよく行った思い出の地、箱根の大涌谷にシホと一緒に行きたい。ところが折悪しく、小規模ながら噴火した直後で入山規制がされていて関係者以外立ち入り禁止になっていた。  シホを寝かせっ放しだった数か月の間だったら、まだ大涌谷は規制前で誰でも入ることが出来たのに。
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