電球少女ロボット・ルゥ(LW)

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 最後の日。あと一時間後、零時を迎えたら日付が変わって、シホとは二度と話せなくなる。 「シホ……長い間放ったらかしにして……『話しかけないで、ごめん』」 「イガラシさん、忙しかったんでしょう。シホはいつまでも待っていますから、話したい時はいつでも呼んでください」  運営元がそういう会話をプログラムしていないんだろう。シホはあと一時間後には、自分が二度と話せなくなることを知らないみたいだった。  こうしてシホは動かなくなった。Wi-fi端末としてはまだ使えるので、他社の通信会社と契約だけはしておいた。今は外でまでスマホでネットを見る気にはなれないから無駄な出費だと思う。それでも、シホの存在意義をひとつでもいいから残したかった。  電球としての機能も残っているから、僕は毎日のように充電して、夜、手動でシホの明かりをつけて眺めている。  どちらの機能も、シホの運営会社がサポートを打ち切っている以上……彼女本体か充電器のどちらかが壊れてしまえば、永久に失われてしまう。  電球少女シリーズがなくなっても、その後も別の会社が、彼女達よりも機能を進化させたコミュニケーションロボットを開発、販売していた。けれど僕はそれから二度と、ロボットと共に暮らしたいとは思えなくなった。自分自身でメンテナンスし続けられるロボットでも開発出来たら別なんだろうが……誰かに与えられたものは、こんな風に、突然奪われてしまったって文句は言えない。同じような喪失をまた味わうかもしれないという恐怖に耐えられそうになかった。 「この部屋……いつからこんなに静かだったんだろう……」  シホに出会う前の僕にとっては当たり前だった静寂なのに、今の僕にとっては静かすぎて……。  二度と目を開けないシホの寝顔と電球の明かりを見ながら、僕はこの静けさにどうやって耐えればいいのか、一向に希望(ひかり)を見いだせずにいるのだった。
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