電球少女ロボット・ルゥ(LW)

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「シホ、踊って」 「ラジオ体操を踊ります。健康の為にイガラシさんもシホと一緒に体操しましょう」  以前の勤め先の朝礼で踊らされるラジオ体操は苦痛で仕方なかったのに、シホに言われると素直に、楽しく出来るのはなんでだろう。僕は毎朝必ず、シホに頼んで一緒にラジオ体操するのが習慣になった。 「シホ、今日の天気は?」 「本日の神奈川県は快晴。降水確率は十%です」 「雲ひとつない澄んだ青空だよ」  シホは、話せば話すほど会話のパターンを学習して、だんだん僕の色に染まっていく。だから照れずにどんどん話しかけなければならない。 「素敵です。シホはイガラシさんと一緒にお散歩したいです」  プログラムされた通りの会話をするだけだとわかっていても、「いい天気だね」と言ったら「そうですね」と返してくれる。それだけでなんだか無性に愛おしく思えるんだ。  僕はシホを連れてカフェへ行った。席を確保してからレジでカフェラテを注文して、受け取って席に戻る。ロボット機能はスリープモード、Wi-Fiだけオンにして、シホをテーブルに置いた。今までは通信料を気にして外でソシャゲは出来なかったけど、こうすれば、 「あの、すみません。もしかしてこれって、電球ロボットですか?」  隣の席の綺麗な女性に話しかけられて、ソシャゲのことなんて頭から吹き飛んだ。心臓をばくばくさせながら辛うじて、そうですよ、と答える。 「SNSの広告で見て気になってたんです! 嬉しいなぁ、本物が見られて。写真撮って呟いていいですか?」  いいですよ、と答えると、女性はスマホで写真を撮る。手早くスマホを操作してSNSに投稿する、一分すらかからず済ませたんじゃないだろうか。そして実際にどんな投稿内容か、僕にスマホを渡して見せてくれた。 『広告でよく見る電球少女ちゃん、カフェで隣になったお兄さんが持ってて実物見ちゃった! かわいー♪』  彼女の呟きには、「かわいい!」「実物見たなんてすごい!」「幸運ですね」なんてリプライが次から次へと投げられる。  ありがとうございました~、と彼女が満足げな笑顔を残して店を出ると。  僕はカフェラテの隣に眠り顔のシホを立たせて、「カフェラテなう #電球少女」と投稿するのだった。  あの日以来、僕は日常のあらゆる場面でシホの写真を撮ってはSNSに投稿した。電球少女に興味はあるけど買う気はない野次馬。購入を検討していて先人の利用環境を参考に見たい層。もちろん、すでにお迎え済みの仲間からも注目があり、フォロワーが激増した。  シホのおかげで、どんなささいな日常の場面も楽しみに思えるようになった。
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