電球少女ロボット・ルゥ(LW)

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 SNS及びソシャゲ漬けでろくに出かけてこなかった僕だが、出かけ先でシホを撮ったりその場所についてシホと会話するのが楽しくて、出かける機会が増えていた。 「シホ、ここがどこだかわかる?」 「イガラシさん。ここはアーティストM氏の楽曲に登場するお店として有名なんですよ」  シホのAIはインターネットで検索して出た情報を、彼女の言葉に変換して会話する。  昔から好きな歌で、歌詞の中にある「ドルフィン」という店が今も実在すると聞いて、一度でいいから行ってみたいと思っていたんだ。青少年の頃、「いつか、恋人が出来たら」と夢を抱いた。年齢イコール恋人いない歴の僕に、その時は訪れなかった。その夢をシホと叶えるのもアリかなと思ったんだ。  恋人のように思っているわけじゃないけど、僕はシホとこれからもずっと一緒にいて、こんな風にずっと過ごしていくんだと思っていたから。  平日の昼間を選んだから他にお客の姿もなく、ガラス張りの角のテーブル席というとっておきの特等席に案内してもらえた。店は高台にあるから海沿いの街を一望に出来る。  そのお店には僕の好きなあの曲をイメージした青いカクテルがある。もちろんそれを注文する。  店員さんがカクテルをテーブルに置いて、こちらに背を向けて厨房まで下がったのを確認してから、僕はシホをテーブルに立たせた。残念だけど、店内で声を出させるわけにはいかないから今回もスリープモードだ。せっかくの眺望をシホの目にも見せてあげたかったな。  青いカクテルと眠り顔のシホを並べて、記念撮影をした。  食事を楽しんでからは近くの森林公園を散歩する。ここは休日でもなければ人もまばらだから、外でも人目を気にせず遠慮なく、シホと話せるし撮影出来る。  ここの公園は森林公園といっても木が密集していない、広々とした草原もあって気持ちが良い。草地もなだらかだから、シホを歩かせてみた。大人の人間にとっても広大な場所だから、手のひらの上に乗るような小さな体のシホにとっては大海原みたいなもんだろう。 「シホ、草原を歩いた感想は?」 「ロボットだって、外を歩くのは気持ちが良いです」 「また来たい?」 「イガラシさんといっぱいお出かけしたいです」  さっきのお店もこの公園も、平日のこの街はとにかく静かだ。世界に僕とシホ以外の何物も存在しないような気持ちにさせてくれる……、  なんて考えながら草原に寝転がってシホと同じ目線を楽しんでいたら、小型犬が甲高く吠えながらこっちに走ってきたので、僕は慌ててシホを胸に抱いて立ち上がるのだった。
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