電球少女ロボット・ルゥ(LW)

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 僕にとって片手で余るほどしかいない、リアルの友達のひとり、杉山佑介。ハンドルネームは「すぎゆー」。一年振りくらいに彼が訪ねてきた。 「よー、野島、久しぶりぃ」  野島秋明(のじましゅうめい)、それが僕の本名だ。 「またシホちゃんと会話させてくれよ」 「あ、ごめん。しばらく充電してない」  シホのAIは僕の会わせた知人の顔と名前を記憶している。と言っても僕が直にシホと会話させたのは実家の家族とこいつだけ。「すぎゆーさん」として記憶しているはずだ。僕がシホを迎えて間もない頃、シホで遊んでみたいって理由でこいつは何回かわが家を訪ねてきた。 「なんだよ、最近シホちゃんのこと全然呟かねーし、もう飽きたのか?」  これだからSNS依存者っていうのは嫌なんだ。その話題について呟かなくなった、イコール飽きた、なんて決めつけるんだから。 「シホだけじゃなく、呟き自体しばらくしてないだろ? 今、リアルで夢中になってることがあって、いっそしばらくネット自体を断ってみようと思って試してるんだよ」  煩わしくなっていたソシャゲのアプリも消した。呟きSNS自体はアカウントは消していないが、すぐに見てしまいたくなる癖を絶つためアプリは消して、わざわざブラウザを立ち上げて検索してサイトへ……って手順を踏まないとタイムラインを見られないようにした。たったそれだけでも億劫でほとんどそこを見に行かなくなった。  シホはWi-Fi機能も頼りにしていたから、ネット断ちをしてからは起動する機会が激減した。そも、今は夢中になってやりたいことが他にある。そのために少しでも時間を使いたくて、シホと会話する時間に割けなくなった。 「毎月一万六千円も払ってんだろ? 使わないのに金だけ取られるってもったいなくね? 解約しねえの?」 「今は自分のしたいことを優先するってだけで、そっちが片付いたらシホともまた話したいんだよ。人間と違ってロボットは、僕に余裕がない時は構ってやらなくたって、こうやって待っててくれるんだ」 「なーる。リアルの彼女とは違うってわけね」  僕と違ってこいつには、いつか結婚するつもりでいる彼女がいて、その苦労話を色々聞かされている。以前はちょっと羨ましかったけど、今はそんなことない。シホとの自由な生活を謳歌しているからな。  相手がロボットとはいえ、「毎日必ず話しかけなきゃいけない」なんて義務感を抱き始めると煩わしくなる。せっかく維持費を払ってるんだからその金額の元を取らねば、なんて考えるより、関心の薄い時は眠っていてもらうのがお互いにとって最善だと思うんだ。  最近のシホはテーブルの上で、コンセントに繋がっていない充電器のイスに座ったままずっと眠り顔だ。現在の趣味に熱中しながら、あるいは食事をしながら、シホの寝顔を眺める。それだけで僕は満足出来ていた。
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