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言うべきか、わざわざ言わざるべきか。
そんなことを考えながらも、言葉は自然と零れて出て来た。
「――マスターさんは、気胸、ってご存知ですか?」
ああ。そんな話から始めるつもりはなかったのに。
重い出だしになってしまったことを、言葉にしてしまってから後悔する。
けれども、マスターさんはカップに視線を落としたまま、私の問いかけには「ええ」と優しく返答した。
「肺に穴が空いてしまう病気だ、ということくらいは」
「はい、それです。去年のことでした。高校最後の年、バスケ部全員で、最後のインターハイに臨んだんです。けれど、結果は一回戦落ちで……私が気胸になってしまったことが原因でした」
「それは試合中に?」
「いえ、試合前に――理由と、入院なんかも決まったことを、母が学校に連絡したんです。自分で言うのはアレなんですけれど、当時エースの座を務めていたものですから、それがそのまま士気に影響したようで……それで」
「なるほど」
「分かってます。もう大学生ですし、病気だったから仕方ないし、もう一年近くも経つし、そうでなくてもずっと前から、仲の良いチームメイトは『あんたのせいじゃない』って言ってくれてるんですけど……」
言いながら、気が付けば指先が震えていた。
慌ててカップを置いて、それを隠すようにして、膝の上へと持って行く。
「思い出す、あるいは――そうですね。何か、そう思えないようなことがあったんですね」
「は、はい……でも…」
「言いにくいことなら大丈夫です。が、貴女は今『仲の良いチームメイトは』と言いました。メンバー皆、あるいはそれに相当する大多数がそういう意思であったのなら、メンバーはと一括りにしそうなものです。どうも、気になってしまって」
「す、凄いですね……ええ、まぁ、その通りですけれど」
思い出すだけでも怖い。
何をしていても、どこにいても、あの光景が瞼の裏に焼き付いて仕方がない。
「退院後、初めて部活に顔を出した時のことです。大丈夫か、もう良いのかって、温かく迎え入れられたようにも思えたんですけれど――更衣室の前を通りかかった折、今までそんな素振りの一つも見せて来なかった、いえそんな風には一切思えなかったような子たちから、そうではない類の声がいくつも聞こえて来て」
それも、ただあの試合のことだけを指すものばかりではなかった。
これまでだってどうだ、あの時はどうだ、あいつがエースなんておかしい、あいつのせいで、あいつのせいで――
「仲の良かった友人たちは、それを責め立てて、喧嘩にまで発展していったようで――後から、何人か軽傷を負うような事態にもなっていたようなんですけど、私は怖くなって、その場から逃げるようにして……それで…」
ストレスからまた息が苦しくなって、短期間の入院をして。
再び戻る頃には、私は誰の声も信用出来なくなって、程なく退部届を提出していた。
その日から、一人で昼食を摂って、授業を受けて、家に帰る。そんな日々ばかりが続いた。
それが苦しくて、嫌になってしまって――大学は、落ち着く地元のここから通えるところに行きたいと母に願い出た。
十年前、転勤という理由から向こうに行ったのだから、母を同行させる訳にはいかないと思って、下宿か一人暮らしかで頑張っていくからと伝えた。けれど母は私の意を汲んで、こちらで仕事をすることを選んだ。
前々から、また戻ってこいと声はかかっていたようだったけれど、やっぱり、母に対しても罪悪感は募った。
話し終えると、また静寂が場を包んだ。
遠くの方からは、微かに、店内に流れるBGMと、他のお客さんの話し声が聞こえる。
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