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ジリリリリリ!!!
耳元で鳴り響く爆音にびくりと肩を震わせて、スパンっと容赦なく目覚まし時計の頭に手の平を叩きつける。途端に室内が静かになり、窓からは家の前を車が走り去る音が聞こえてきた。
僅かに隙間の空いたカーテンからは朝日が差し込んで、容赦なく私の顔を照らす。眩しさに目を細めつつ、重い体を持ち上げて布団から抜け出した。
あの夢は何だったんだろう。
おもむろにカレンダーを見れば今日、四月二十日は赤ペンで大きく囲まれていて、確かに私の誕生日に違いなかった。
現実だけでなく夢の中でまで祝って欲しいだなんて。私ってそんなに強欲だったっけ。
赤いランドセルに教科書を詰め込んで、用意していた着替えに身を包むと、一階から「天音ー!」と母の大きな声が飛んできた。同じ声量で「はーい!」と返事をして、ばたばたと階段を駆け下りる。
でもまあ夢だし。
考えても仕方がない。玄関近くにランドセルを放り投げると、「行儀が悪い!」と再び母の声。適当に謝って新聞を広げる父の前に座る。朝ご飯は目玉焼き、しかも私が大好きな半熟だ。
「天音」
「何?」
「お誕生日おめでとう」
表情をあまり変えることの無い父が口元を微かにゆるめて、続けて母も「おめでとう」と祝ってくれた。「ありがとう!」と満面の笑みを浮かべた。
登校すれば今度は友人が祝ってくれて、どんどん投げられる「おめでとう」にたくさんの「ありがとう」を返した。
家に帰ると母がたくさんのご馳走をテーブルに並べていて、チョコレートプレートに「あまねちゃん お誕生日おめでとう」と書かれたケーキまで用意してくれていた。珍しく早めに帰宅した父と三人で食卓を囲む。
ロウソクの火を吹き消す頃には夢のことなどすっかり忘れてしまっていた。
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