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目覚まし時計のアラームをしっかりセットして、ばふんっ、と勢いよくベッドに横たわる。明日は私の16歳の誕生日。入学してそれほど日が経っていないけれど、親と中学からの付き合いの友人はきっと祝ってくれるだろう。あとは夢の中の手紙の送り主も。
目を瞑ってじっとしていると、すぐに眠気が襲ってきたので、私は睡魔に身をまかせてあの夢の世界に沈み込んだ。
終わりの見えない海が広がり、下に行けば行くほどその青は色を濃くしていく。月が空から優しい光で照らし、目の前には何の変哲もない赤いポストがある。
いつも通りの夢――ではなかった。
海面が波打っている。穏やかという言葉の域を出ない程度に、本当に少し。あとは、月。ずっと満月だったはずなのに、僅かに欠けている。ハッとして私はポストに視線を向けた。
少なくともこの場所からは変わった様子は特に見られない。いつも通りの赤色が私を出迎えるが、むしろポストにだけ何の変化もないということが私の胸に違和感の針を刺した。
何度見てもいつも通り。けれど、確認すればするほど心にはどんどん針が増えていく。
心臓の音が耳に付くまま、私はポストに向かって足を進めた。
手を伸ばして手紙を受け取る。
中から聞こえるカチャン、という音も変わらない。
白い封筒を急いで開けて、便箋を広げた。
――第一志望合格おめでとう。新しい制服もとても似合っているね。天音は友達をたくさん作って、高校生活を楽しんでね。
ちくちくと私を刺していたたくさんの針が形を持ち、心に大きな穴を開けた。
お誕生日おめでとう、がない。
たった一文無いだけのことだが、その消えた一文が私の心をかき乱す。
封筒の中を見ても便箋はこの一枚以外入っていなくて、私はもう一度、封筒と便箋を端から端までくまなく見直した。
便箋の裏、右端の隅っこにその文字はあった。
――手紙はこれで終わり。
「えっ!?」
間違いなく、手紙の送り主が書いた文字だった。癖のある丸っこい字は五通の手紙の中にずっと共通していたもので、見間違えるはずがない。
もう一度読み返そうと手紙を裏返すも、便箋が光に包まれて端の方から光の粒子に姿を変え始める。
まずい、手紙が消えてしまう。
待って!と声を上げるも言葉は届かず、持っていた手紙の上の方からさらさらと、まるで砂のように便箋が零れ落ちる。粒子を手で掬おうとしても指の隙間から漏れ出ていく。
止める術なんて知らない。わかるはずもなかった。
光の強さを増した粒子に思わず目を瞑り、次に目を開けた時には白い天井が広がっていた。
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