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真っ先に目に入ったのは一面に広がる穏やかな海。澄んだ青は下に行けば行くほど色を濃くしており、けれど魚の姿が一匹たりとも見えない。
私は海面に立っていた。試しに一歩踏み出してみても体は沈むことがなく、凪いだ海面には緩やかに波紋が広がるだけだった。
目線を上げると数メートル先にポストが浮かんでいる。道端でよく見る真っ赤なポストで、郵便マークがついたそれは海面に浮かんでいること以外何の変哲もない、いたって普通のものだった。
夢だ。
空には月、周りは海、そしてポスト。これらが一度に集う場所が現実にあるはずがない。
さらに一歩足を踏み出すと、波紋が少しずつポストに近づき、波のひとつがポストに辿り着いた。すると中からカチャンと物音がして、本来手紙が出てくるはずのない投函口から白い何かが飛び出してくる。咄嗟に両手で受け止めた。
飛び出してきたのは封筒だった。
――小山天音様
癖のある丸っこい字で私の名前が書かれていた。
封を切って中身を取り出すと、入っていたのは二つ折りの便箋。右下にクラゲのイラストが描かれた便箋にはたった一文、こう書かれている。
――お誕生日おめでとう。
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