序章(2)紫夕side

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序章(2)紫夕side

「!……降り出したか」 ヒュゥ……ッと冷たい風を感じたと思ったら、チラチラと粉雪が舞い始める。 時期的にはもうすぐ春だと言うのに、荒れ果てたこの世界は季節まで狂い始めていた。 俺は斬月(ざんげつ)を地面から抜くと、背中の鞘に納めながら少年の足元を見た。靴を履いていない傷だらけの足。どうやらその足で砂利や瓦礫やらが散らばった中を歩いていたようだ。 足の傷と言い、さっきキマイラにやられた傷と言い……。痛く、ねぇのか? 再び表情を伺うが、少年は相変わらず無表情だった。 ひとまず、本部に連れて帰るか。 俺がそう思った時、タイミング良く通信機からオペレーターの声が聞こえる。 『紫夕(しゆう)さん?紫夕(しゆう)さんっ?聞こえますかっ?』 「ああ」 『ああ、良かった! すみません、別件で遅れました!戦闘があったようですが大丈夫でしたかっ?』 「大丈夫だ、問題ない」 GPSで俺の動きやらを見て、なかなか帰路に向かっていない事を心配したのだろう。俺が返答すると、オペレーターはホッとしたようにもう一度「良かった」と呟く。 この声は李乃(りの)ちゃんだな。 可愛い声に癒される。 数人居るオペレーターの1人でまだまだ入ったばかりの新入りさんだが、その一生懸命な仕事振りと優しく可愛い笑顔に癒されて隊員の中にはファンが多い。 毎日のように戦いに明け暮れ、たいした娯楽などの楽しみもない守護神(俺達)にとって、李乃(りの)ちゃん達オペレーターの女の子、また救護班の女の子は心を潤してくれるオアシスだ。 ま、俺と李乃(りの)ちゃんは年齢がひと回り近く違うから手を出せば少々犯罪な気もするが、人生一度きりだからな。 いつ命を落とすか分からない任務が続く俺達にとって、まさに人生は一期一会。その時その瞬間を楽しまなきゃ後悔すると思っていた俺は、特定の恋人は作らなかったがその分かなり軽かった。
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