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「!っ……紫夕ちゃ~ん!良かったわぁ~無事で!」
「……。
そうだった。今回の同行救護班お前だったな」
ワゴンタイプの車の側まで行くと、ガラガラッ……!と勢い良く扉が開く。中から現れた姿を見て俺はげんなりだ。
コイツは大海原 マリィ。
名前に騙されてはいけない。話し方を聞いて鋭い読者さんはピンッときているだろうが、コイツは正真正銘性別は男。つまり、オカマだ。
まるでパンチパーマを掛けたようなくるくる金髪頭だが、これは本人いわく天パ。その頭に赤いリボンを着け、決して色白とは言えない、どちらかと言うと黒い肌にそこそこ体格の良い身体を白衣に包み、更に分厚い唇に赤い口紅。
どう見ても初めて見た人は、そんじょそこらの魔物よりもビックリする存在であろう。
だが、認めたくないが医療関係の腕は確かだ。
「!……どうしたのっ?その子!
やだっ、大変!怪我してるじゃなぁ~い!」
俺の腕の中の少年を見付けて、駆け寄ってきたマリィは心配そうに覗き込んでくる。が、俺からしたら、マリィを目の当たりにした少年への衝撃の方が心配だった。
……しかし。
少年は相変わらずの無表情に無反応。
これには俺だけではなくマリィもおかしく感じたようで、少しテンションを下げると静かな声で言った。
「ひとまず中に入って。
本当は洗ってあげたいけど、化膿するといけないから簡単に消毒だけでもしちゃいましょう」
「ああ、そうだな」
マリィの言葉に頷き、俺達が乗り込むと車は本部への帰路を走り出した。
揺れる車内の中、長いシートの上に少年を座らせて斬月を背中から降ろすと、俺も少し離れた席に座る。
医療処置がこの場で行えるようそこそこ広く造られている車内。だが、密室になったからか、俺が感じたあの悪臭がまた鼻につく。
雪が降ってるから窓を開ける訳にもいかねぇし……。
参ったな、こりゃ……。
俺はすっかり参ってしまい少年から視線を逸らして窓の外を見ていたが、そこはさすが救護班であるマリィ。汚いとか、臭いとか全く気にしない様子で少年の真正面に座ると優しく声を掛けた。
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