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そこまで見て、全てが繋がった。
先程感じた、何処か知っているような悪臭。
それは、男性の体液が乾いたものーー……。
……。
……俺は、何て、酷い事をした?
少年を思いっきり平手打ちしてしまった光景が頭の中によみがえってきて、心と身体が震えた。
「紫夕ちゃん!
……もう、それくらいにしてあげてっ」
マリィが俺の手からタオルを奪って、再び少年の身体を覆い隠すと、「痛かったら言ってね」と、優しく傷の手当てを始めた。
その傍らで、俺は自分の思い違いと思い上がりを心の底から悔やんだ。
少年が絶望していたのは、身内が殺されたからでも、村を滅ぼされたからでもねぇ。
それよりもずっと前から、生きる事に苦しんで、絶望してたんだーー……っ。
喜んでほしくて、幸せになってほしくて、救った命。
今まで救う事が当たり前で、救う事が幸せに繋がると信じていた。
けど、今日。
俺は人を助けて、命を救って……。初めて、自分がしてきた事が正しいのか、分からなくなった。
そしてこの日の任務は、俺にとって一生忘れられない任務になった。
……
…………。
「……、……そう。
仕方ないわよ。紫夕ちゃんのお仕事は、人の命を救う事だもの」
手当てを済ませて、睡眠薬入りの栄養剤を点滴すると少年はすぐに眠ってしまった。
その間に、俺はマリィに少年を助けた時の事を全て話した。救護班をする傍ら、心に傷を負った者達の話を聞く仕事もしているマリィは、悔しいが話を聞くのが上手だ。
俺を責める事もせず、少年にも俺にも寄り添おうとする心遣いが伺える。
「酷いのは、この子をこんな目に遭わせた奴等よ。
一体何歳の時から、相手をさせられてたのかしら……」
そう言って、今にも泣き出しそうな表情でマリィが少年の寝顔を見た。俺も目を向ける。
最初見た瞬間から思ってはいたが、その顔立ちはとても美しいものだった。
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