番外編②雪side(後半)

1/4
前へ
/289ページ
次へ

番外編②雪side(後半)

「……っ、ん~~! あ~疲れた!結局呼び出しと子供(ガキ)の稽古で、貴重な療養期間が1日潰れちまったな」 夕方。 医療施設からの帰路を一緒に歩いていると、紫夕(しゆう)が伸びをしながら言った。 でも、その表情を見れば分かる。ちっとも嫌そうじゃなくて、リハビリ生活だった時よりも"充実した"って顔をしてる。 やっぱり、そういう表情(かお)のが紫夕(しゆう)だ、って感じがするーー。 「お疲れ様。 夕飯、何がいい?紫夕(しゆう)が食べたい物作るよ?」 「へ?……何言ってんだよ、(ゆき)だって疲れてんだろ?買って帰るか、寮の食堂でいいぜ?」 大好きな横顔を見上げながらオレが尋ねると、少し驚いた顔でこっちを向いた紫夕(しゆう)が言う。でも、オレは首を横に振った。 「ううん、大丈夫。作りたい」 「でも……」 「いいの、オレが作りたいの。だから、作らせて?」 手を握って笑顔でオレがそう言うと、紫夕(しゆう)も嬉しそうに微笑って手も強く握り返してくれる。 この笑顔を、もっと見たいーー。 たくさん色んな事を考えてしまう。 けど、離れようとか、離れたいとはちっとも思わない。むしろ、傍に居たいんだ。 オレは、紫夕(しゆう)と一緒に居たいんだーー。 そんな想いを胸に微笑んで居ると、紫夕(しゆう)が口を開いて夕飯のリクエストをしてくれる。そしてオレには、そのリクエストが何なのかすぐ分かる。 「うん!なら今夜は~……肉だな!」 「お肉、でしょ?」 オレが同時に言うと、紫夕(しゆう)は「あはははっ」って笑ってくれた。繋いでる手、少し触れ合っている身体に伝わってくるその振動が、くすぐったくて愛おしい。 好き。 大好きだよ、紫夕(しゆう)。 「なら、今日はハンバーグ作るね」 「お、いいね~! (ゆき)が作るハンバーグ、ソースがめちゃくちゃ美味いもんな!あれ、何入れてんだ?」 「秘密~!」 「っ、お前……たまに意地悪だよな。 ……けど。ま、いっか!(ゆき)がずっと作ってくれんだもんなっ!」 「ーー……うんっ!」 作るよ。 紫夕(しゆう)が飽きるまで、作りたいーー……。 それが、オレに出来る数少ない事。
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

82人が本棚に入れています
本棚に追加