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番外編②雪side(後半)
「……っ、ん~~!
あ~疲れた!結局呼び出しと子供の稽古で、貴重な療養期間が1日潰れちまったな」
夕方。
医療施設からの帰路を一緒に歩いていると、紫夕が伸びをしながら言った。
でも、その表情を見れば分かる。ちっとも嫌そうじゃなくて、リハビリ生活だった時よりも"充実した"って顔をしてる。
やっぱり、そういう表情のが紫夕だ、って感じがするーー。
「お疲れ様。
夕飯、何がいい?紫夕が食べたい物作るよ?」
「へ?……何言ってんだよ、雪だって疲れてんだろ?買って帰るか、寮の食堂でいいぜ?」
大好きな横顔を見上げながらオレが尋ねると、少し驚いた顔でこっちを向いた紫夕が言う。でも、オレは首を横に振った。
「ううん、大丈夫。作りたい」
「でも……」
「いいの、オレが作りたいの。だから、作らせて?」
手を握って笑顔でオレがそう言うと、紫夕も嬉しそうに微笑って手も強く握り返してくれる。
この笑顔を、もっと見たいーー。
たくさん色んな事を考えてしまう。
けど、離れようとか、離れたいとはちっとも思わない。むしろ、傍に居たいんだ。
オレは、紫夕と一緒に居たいんだーー。
そんな想いを胸に微笑んで居ると、紫夕が口を開いて夕飯のリクエストをしてくれる。そしてオレには、そのリクエストが何なのかすぐ分かる。
「うん!なら今夜は~……肉だな!」
「お肉、でしょ?」
オレが同時に言うと、紫夕は「あはははっ」って笑ってくれた。繋いでる手、少し触れ合っている身体に伝わってくるその振動が、くすぐったくて愛おしい。
好き。
大好きだよ、紫夕。
「なら、今日はハンバーグ作るね」
「お、いいね~!
雪が作るハンバーグ、ソースがめちゃくちゃ美味いもんな!あれ、何入れてんだ?」
「秘密~!」
「っ、お前……たまに意地悪だよな。
……けど。ま、いっか!雪がずっと作ってくれんだもんなっ!」
「ーー……うんっ!」
作るよ。
紫夕が飽きるまで、作りたいーー……。
それが、オレに出来る数少ない事。
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