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長い前髪の隙間から覗くその瞳には、魔物や死に対する恐怖は微塵もなかった。
どうでもいい、とーー。
自らが生きる事を諦めている、そんな瞳だった。
そりゃ絶望するだろう。
両親や身内を奪われて、住んでいた家や村がこんな事になって、絶望するのは当たり前だ。
ーーけど。
俺はこのクソガキの瞳を見たら、何故か無性に腹が立った。
カアッと全身の血が沸騰するように熱くなって、その怒りが斬月に宿る。
イラついた感情のままに腕を振ると、キマイラは断末魔の声を上げる間もないまま真っ二つに斬り裂かれ、ドシャッ!!と音を立てて地面に転がった。
返り血を浴びた姿も、血で汚れた手でもお構いなしだ。
俺はツカツカと早足で歩み寄ると斬月を地面に突き刺す。そして、尻餅を着いたままの子供の胸ぐらを左手で掴んで起こし、右手で思いっきり平手打ちした。
パァンッ……!!
「っ……このッ、大馬鹿野郎がっ!!」
大人気ない。
最低な事をしている、と分かっていた。
それでも、止められなかった。
これまで目の前で消えてきた沢山の命を見てきた俺には、自ら生きる事を諦めているこの子供が許せなかった。
「助けて」「怖い」「生きたい」「死にたくない」、醜くても、惨めでも、消えてもいい命なんて一つもないのだから……。
「ふぅ……っ」と目を閉じて深呼吸して、怒りに震える心を落ち着けてから、俺は目を開けてもう一度子供をじっくり見た。
白髪に、薄く水色がかった瞳。
白髪はおそらく元々ではなく、精神的なショックを強く受けた影響からくる色だろう。だが、この透き通った水のような瞳はこの辺りの人間にしては珍しい色だった。
中性的で美しいその顔立ちは、パッと見少女にも見えるが骨格や手の大きさを見ると少年だと言う事が伺える。
色褪せたシャツにボロい黄土色のズボンに身を包んでいるが、服の上でも分かる程に少年は痩せていた。歳は、12、13歳……位か?
少年を少し観察した後、俺は片膝を着くと視線を合わせて問い掛ける。
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