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「……いくつか聞いてもいいか?」
「いいよ。質問にもよるけど」
言いにくそうに聞く蛇へ、ゼアルはニッコリと言う。
「そうか。なら……」
蛇は少し考えるそぶりをし、それから聞きづらそうにゼアルを見つめた。
「その――なぜお前は私をバズと呼ぶんだ?」
「えっ」
蛇の問いにゼアルは気の抜けた声を上げる。
「……今の会話の流れで聞くのがそれ?」
「もちろん他にも聞きたいことはあるが、先ほどからお前が当たり前のようにそう呼ぶのが疑問でな」
「そ、そっか……」
蛇の言葉にゼアルは脱力するように眉尻を下げ、言い訳をする子供のように目をそらしながら言った。
「……いや、最初にバジリスクって呼んだ時逃げようとしてたから、あだ名で呼んだら大丈夫かなって思っただけなんだけど」
「それだけか?」
「うん」
「そうか」
会話が途切れ、沈黙が流れる。
「……えっと、もしかしてあだ名で呼ばれるのが嫌だったとか?」
「違和感はあるが嫌悪感はない」
恐る恐るといったふうに窺うゼアルに、蛇はただ淡々とそう返すだけ。
「えと……じゃあ、これからもバズって呼んでいいかな?」
「好きに呼べばいい」
ゼアルの言葉に蛇は――バズという呼び名をもらった彼はそっけなく返答するが、内心では今までにないほど浮かれているのを自覚していた。
かつて対面してきた者たちに「これから」などなかった。親しげな呼び名などもらったことはなかった。
こうして対話できる相手など、どこにもいなかった。
(……悪くない)
バズは、生まれて初めて他者との関わりを「嬉しい」と感じた。
冷えた殺意ではなく友好的な態度を見せるゼアルに、確かな温もりを感じたのだ。
その温もりの名も、ゼアルとの関係性を表す言葉も、今のバズはまだ知らない。
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