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「――それで、バズは他に何が聞きたいんだ?」
にこやかにゼアルは言い、バズは考える。
これまでのゼアルの話で不明瞭な点といえば――
「お前は……ゼアルは、なぜ人間の姿をしているんだ? 剣に封じられ、砂漠の地に安置されていると聞いたが」
「ある親切な少女に連れ出してもらったんだよ。んで、一緒に旅をするうちに擬態の術を覚えたって感じかな」
影のある笑みに一つの予感がよぎる。
「その少女は?」
「死んだよ」
「……そうか」
概ね想定通りの返答に、バズはただそれだけを返した。
「……ちょっと、色々あってさ。守れなかったんだ、その子」
濁すように言い、ゼアルはそっと目を逸らした。
「ごめん。気持ちの整理がついたら――」
「無理に話すことはない」
「……へへ、ありがと」
バズの返答にゼアルは力無く笑い、深く息を吐く。
その横顔はどこか疲れているように見えた。
「少し休むか? ここまで長旅だっただろう」
「まあ、ね。でも俺は大丈夫だから。ほら、他に聞きたいこととかあるだろ?」
話を逸らすように言うゼアルにバズは少し考え、次の質問を繰り出した。
「旅といえば、何かいい思い出はあるか?」
「旅の思い出、ねえ……」
考え込むゼアルへ、バズは続けて質問を投げる。
「景色はどうだ? 地は、空は、人の営みは、どうだった?」
殺しを厭うバズは常に目を閉じている。
それこそ、躊躇うことなく見られる景色はこの毒霧にかすむ狭い島だけだ。
それゆえにバズは己の知らないものを知りたいと、ゼアルへ問いかけた。
「あー、そっか。そういうのなら俺、すごいのを見たぞ!」
ゼアルはそう言ってバズへ向き直る。
「グラストリア大陸の東に働く人形たちの街って呼ばれてる都市があってさ。そこじゃ肉体労働のほとんどを魔導人形がやってるんだ」
「デルン、というのは?」
「魔力で動く人形だよ。見た目は人間とそう変わらないけど、人間よりも頑丈で力があるんだ――」
そう説明しながら、ゼアルは旅の話を語り始めた。
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