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αにしてΩたる日
一月一日の元日の朝、青年は新年度の年明けと共に父親となった。初詣の願いも臨月を迎えて直に生まれ出ずる我が子の安産であった。神様もその願いをすぐに聞き届けてくれたのか、出産は新年の黎明の日が大地を照らすと共に行われた。
青年はその報を聞き、初詣から戻っての仮眠もそこそこに朝日に包まれながら、妻とまだ見ぬ子の待つ産婦人科へと急ぐのであった。
青年は新年の黎明に照らされる病室へと駆け込んだ。病室のベッドでは妻が我が子を抱き、微笑みながら、まだ毛も生え揃わぬ頭を優しく撫でていた。
青年は妻の胸に抱かれた我が子を見て、本当に自分の子かと信じられずにいた。男は子を腹に宿すことが出来ない故に、父である自覚を得ることが出来ずに疑念を得てしまうのであった。青年は困惑しながらも、喉の奥より言葉を引きずり出す。
「この子が…… おれの……」
妻は夫に向かってニッコリと微笑んだ。
「そうよ。あなたの子よ。男の子よ? ほら? パパですよ~」
青年は恐る恐る、赤子に向かって手を伸ばした。赤子は伸ばされた指をギュッと掴みにかかった。青年は赤子の強い力と熱さを指先で感じ、小さくも強い命を前に涙を流してしまった。
「おれの子供…… 何言えばいいか分かんねぇけど、嬉しいとしか……」
「そうよ、今日から『パパ』なんだからね? 頑張ってね?」
青年は単なる男から『父親』になったと言う自覚にたった今目覚めた。
こう考えると、猿のようにしわくちゃな赤子でも可愛く見えてくるもの。この子をちゃんと育て、家族を支える一家の大黒柱たる父親として「しっかりしなくてはいけない」と気合も入るのであった。
こうした気分も落ち着いたところで、青年は安堵し、妻に礼を述べた。
「よく、頑張ったな」
「ええ。しかし、一年の始まりの日に生まれてくるなんて…… 予定日はクリスマスだったのに……」
「おいおい、別にいつ生まれてもいいじゃないか。一週間でも長く、お前の腹にいたかったんじゃないのか?」
「ええ、そうね。元日に生まれるなんて一生忘れられない」
「二重の意味で特別な日だ。一月一日は『我が家』にとって特別な一日になっちまったな」
「そうね。この子も『一生』話のタネには困らないわね」
青年は年明けの初詣から息子の出産まで軽い仮眠しかとっていなかったため、急な眠気が襲い掛かり大欠伸をしてしまった。
「あら? 眠いの?」
「仕方ないだろ? 昨日からロクに寝てないんだから」
「じゃあ、帰って寝たら? あたしは朝の健診もあるし。この子も授乳時間までは新生児室でオネンネだし」
「そうか、俺の出る幕はないってことだな。実家への連絡もしておきたい。ええっと、男だったな?」
「そうよ。じいじやばあば達もどっちかどっちかってソワソワしてるだろうから、早く連絡してあげてほしいな」
青年は産婦人科を後にして、帰路に就いていた。その道中、葬祭場の前を通りかかると、葬儀が行われており、喪服姿の葬列が鼻を啜りながら歩いているところに通りかかった。
「正月から葬式か……」
年の始まりの日から大事な人をあの世に見送ると言うのか…… 悲しい日だ。こんな家もあれば、我が家みたいに新しい命が生まれて、嬉しい日もある。
元日は一年の始まりと言う特別な一日である。青年にとっては今日が息子が生まれ、新たな家族の始まりの日と言うこともあり、その意味は二重となる。だが、そうとは限らない者もいる。青年が偶然見かけた葬儀を行う家にとっては元日は葬儀を行い、あの世に見送った日に過ぎない。意味は違えど特別な一日に変わりはない。
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