αにしてΩたる日

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 ところ変わって…… ここはとある市役所。一組のカップルが早朝の初詣を終えたその足で市役所へと訪れていた。そのカップルは時間外受付窓口へと向かい、小さな窓越しに見える空色の制服を纏った好々爺の守衛に一枚の紙を渡した。 婚姻届である。 「すいませーん、婚姻届の受理お願いしまーす」 好々爺の守衛はこの道40年のベテラン守衛、元日婚を経て夫婦となるカップルの婚姻届の受理をした回数は数え切れない。元日婚であるが、婚姻届の提出後に「不備」があれば、後日呼び出されて改めて受理と言う形になってしまう。つまり、元日婚ではなくなってしまうのだ。守衛もそれをよくわかっており、祝福の言葉をかけると共に、改めて婚姻届を突き返すのであった。 「これはこれはおめでとうございます。一度、婚姻届の方の見直しをお願いします」 カップルは婚姻届を穴が空く程に眺めた。戸籍との名前の違い、妻の方が新姓で名前を書いてないだろうか、本籍と現住所が違っていた、記入漏れはないか…… などとチェックを重ねていく。 数分のチェックが終わり、カップルは婚姻届を改めて守衛に提出するのであった。 「はい、間違い等はありませんね?」 カップルは守衛に向かって高らかに「「はい!」」と返事をした。 守衛は改めてカップルから夫婦となった二人に「おめでとうございます」と述べ、婚姻届を受理するのであった。 新年の始まりと共に、あの夫婦も始まる。こんなにめでたいことはない。きっと、あの夫婦にとって一月一日は特別な一日になるに違いない。この四十年の守衛生活で他人事ながらに嬉しく感じるのはこの日ぐらいだろうか。例年であれば、まだ数組のカップルが夫婦となりにこの時間外受付窓口へと訪れる筈だ。彼らが夫婦となる特別な一日に水を差さないように頑張らなくてはいけない。守衛は気合を入れた。  それに今日はお年玉目当ての孫が家に来る日、お年玉目当てでも孫が顔を見せてくれる時点でじいじとしては嬉しい。守衛の交代時間が来るのを待ち遠しく思うのであった。 守衛にとっても今日は特別な一日であった。
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