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私の最後のフライト
父の最後のフライトから30年が経っていた。その日も私は操縦室に居た。でもそれはCAとしてでなく……。
「山本機長、ご両親が操縦室へ来たいそうです」
右席に座る副操縦士の秋月あとむ君が私に声を掛けた。あの父の最後のフライトに搭乗していたあとむ君は、あの時の彼の宣言通りパイロットとなっていた。
「ええ、気流も安定しているから今が良いかもね」
そして私も父の最後のフライトの感動を忘れられなくて、CAを辞めて操縦免許を取得し、今は極東航空の機長としてもう25年を過ごしている。
暫くすると両親が操縦室に入って来た。90歳を超える彼等はまだ矍鑠としてとても元気だ。ただ父はあの最後のフライトで視力を失ってしまっている。
「二人共、補助席に座って。お父さん、操縦室に入るのは久しぶりでしょ?」
「ああ、最後のフライト以来かな。目は見えないが懐かしい雰囲気だな」
「そうよね。私もあの最後のフライトの感動を今も覚えているわ。あれが私のパイロットへの想いを再燃させたしね。ねぇ、お母さん。女性だってCAじゃなくても良いでしょ」
母が少し苦笑いする。
「そうね、お父さんも素敵だったけど、パイロットの理紗も輝いているものね。でも今日でそれも終わりね」
私は小さく頷いた。そう、今日で定年を迎える私にとってこれが最後のフライトだ。それで両親を操縦室へ招待したの。
「じゃあ理紗。最後のアナウンスだな」
「ええ、お父さんの素敵な最後のアナウンスに負けない様に頑張るわ」
私は操縦をあとむ君に預けると、インターフォンを手に取った。
そして私は最後のアナウンスを始めた。父の最後のフライトとアナウンスには決して勝てないかもしれないけど、乗客の皆様への感謝の想いを、思い切り乗せて……。
「ご搭乗の皆様。本日は極東航空274便、東京羽田行きにご搭乗頂きまして大変ありがとうございます。機長の山本でございます……」
FIN
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