機長の父

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機長の父

 その時、私は機内前方に立つ父の姿を見ていた。それは私が小さい頃から変わらない、パイロットの制服に身を包み四本線の肩章が機長の威厳を放っている。だけどこの機内ブリーフィングも、父にとっては最後になる筈だ。  父の横で副操縦士の坂本君の説明が続く。 「……降下中に揺れが予想されています。客室サービスは早めに終わらせる様にお願いします」  次にチーフの私から情報を伝える。 「お客様ですが本日251名+2INF(乳児)です。あとジュニアパイロットのお客様が1名いらっしゃいます。秋月あとむくん6歳です。そして……」  私は真っ直ぐ父を見つめた。 「皆さん、既にご承知だと思いますが、私の父、山本機長は本日60歳の誕生日を迎え、この福岡発羽田便が最後のフライトとなります。私的な話となって申し訳ありませんが、今日はCAの大先輩で現在執行役員の私の母も搭乗します。羽田到着後は送別会が催されます。皆さん時間があれば参加をお願いします」  私の声に父を除く全員が大きく頷きながら拍手をしてくれた。いつも寡黙な父は少し照れた様な表情を浮かべたが、深々と頭を下げると坂本君と一緒に操縦室(コックピット)に戻っていった。   「さあ、もう搭乗時間よ。ポジションについて」  各CA達の背中を見送ると、私はお客様を迎える為、L1ドアの横で背筋を伸ばした。
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