Ⅰ ~【断罪人】、誕生~

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 正直都合がいいから私自身が出向くわけなのだが。  ……内心、めちゃくちゃ面倒くさい。 「マイカさん!ご無事でしたか?」 「え、えぇ。思ったよりもあの男弱かったですし」  神官は私を見るや否や光の如き速さで私の肩を掴んできた。  そして私の言葉を聞いた途端神官はおろか、周りの給仕でさえ驚いた顔をしていた。 「え、えっと……私何か変なこといいました?」 「変なことでしかないですよ……  結論から申し上げると、あの人は並大抵の一般人では太刀打ちできない。それどころかこの辺りにいる人間では束になっても勝てるかどうかというくらいの強さを持っていたのです」 「へ、へぇ……そうだったん、だ……」  顔は冷静に、冷静に。そう心の中で呟くが体からは冷や汗が滝のように流れていた。 「それを貴方が倒した、ということは……その辺の人間なら脳殺できるでしょう」 「ただでさえ魅力がない私への侮辱かな?そう捉えていいかな?いいよね?」  神官が言った"悩殺"は絶対にどこか感じが違うような気がしたが、それはともかく目の前の神官の身体と自分の身体を見て怒りのボルテージは最高潮に達していた。 「えっと、どうしてそんなに激怒してらっしゃるので――」 「……体に自信がある人っていいよね、ほんと。私のこんな貧相な体じゃ男はよってこないわ、仲良くなれそうな女子とも過剰なスキンシップできないわ、嫌な女どもからいじめられるわ、挙句の果てには男に間違えられるわ……」 「あの、マイカ……さん?」 「あはは……。もうこの恨みこの世界の罪人に晴らそうかな」  これは今までの人生、否。  前の世界での『藤林舞華』としての人生で積もりに積もった恨みもとい妬みをこの世界でぶつける。  なんと良い案なのだろうか。  逃げる罪人側からしたらただただ、迷惑でしかないのだが。 「……とりあえず、今あなたに会いに来たのには理由があって――  ――私を断罪人、とやらにしてくれませんか?」  私はそう言い放った。  ただでさえ呆気に取られていた顔はさらにポカーンとした表情になる――かと思いきや、 「ほほほ、本当ですか!?お願いをした私が動揺してちゃ駄目なのはわかってますが……。えぇっと、本当にやって頂けるんですか?」 「はい。どうせ仕事内容は『逃げ出した罪人をどんな手でもいいから見つけて殺す』ってことでいいんでしょう?」  ……数日、いや数時間前まで私は平凡な学生。  でも、今からは死刑執行人。またの名を【断罪人】と言う――。
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