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何やらいい匂いで目を覚ます。
ゆっくり伸びをしてあたりを見回すと、他の奴らはご飯を食べていた。
(なんだ、もうみんな帰ってたのか)
のそのそとテーブルの下まで歩き、ちょこんと座る。
(何か、食べ物、落ちてこないかなぁ)
「ねぇ、このトンカツ、焦げてない?」
手前の声が大きいやつが言った。
(なんか文句言ってる……こいつはいつも大声で文句言ってるな)
「うるさいなー、ちょっと揚げすぎたのよ」
声の大きいやつの正面にいるのが答える。
(こいつの声はいつもキンキンしてる、今日もキンキンだ、耳に響く)
「ちょっとじゃないよ! 真っ黒、苦いとこあるし」
「じゃ、食べなけれはいいでしょ!」
「そういうこと言ってんじゃないよ! 油が少な過ぎるんじゃない?」
「油も今は高いのよ!」
(やれやれ、また始まった、この2人いつもケンカしてるな)
「でもおいしいよ。これ」
その隣に座ってるやつが言った。
(こいつはいつものんびり喋る。でもよく食べ物をくれる、たまにちょっかいを出してくるのが鬱陶しいけど……しかしそれにしても食べ物落ちてこないな)
「おい、お前らいい加減にしろよ、せっかくのトンカツがまずくなるだろうが」
のんびりの前に座っているやつが言った。
(なんだ。あいついたのか、いるなら散歩に連れてってくれてもいいのに、散歩係のくせに、あいつがいるなら何か落としてくれそうだな、俺のいうことなんでも聞いてくれるし)
「俺が言いたいのはせっかくのトンカツが勿体無いって言ってんの! わかる?」
「じゃ、あなたが揚げれば?」
「でも、美味しいよ」
(相変わらずうるさい家だ、それにしても何も落ちてこないな、いつもなら散歩係が何かくれるのに)
場所を移動して散歩係を見上げる。
(あ! あいつあれ飲んでる! あれ飲むとあいついつも絡んでくるんだよなぁ、めんどくさいんだよなぁ、でもそういえば最近絡んでこないな)
「そんなに言うならちょうだい」
と、のんびり声が大きな声のトンカツを奪いに行く。
「だめ!」
大きな声が皿を動かした時、ポトリ、一切れのトンカツが床に落ちた。
「あっ!」
(よっしゃー!)
すぐに駆け寄りトンカツを頬ばる。
(うん、うまい、この食べ応え、いつものフードにはないボリューム)
ぺろりと一切れを食べると辺りを見回す。
(あれ?)
みんな落ちたトンカツを見つめている。いままでの騒動がなかったように静かになっている。
「こんな時、ミルがいたら一目散にやって来たのにな……」
大きな声がしんみり言った。
「そうよね、なんか寂しいよね」
キンキン声が静かに言った。
「ミルが死んで一月かぁ」
と言うと散歩係がちびりと飲んだ。
「……」
のんびり声はなにも言わず、まだこっちを見下ろしている。
(なんだ、こいつら? 死ってなんだ?
でも、まぁ、いいか…… もう、何も落ちてこないだろうし、お腹もいっぱいになったし、静かになって眠くなったし……)
トコトコ歩きいつもの定位置の座布団に丸くなる。
のんびり声が立ち上がり、落ちたトンカツを拾うと皿の上にのっける。
「お供えにする」
ミルの写真が飾っている机の上に置いた。
「さ、みんなでご飯の続きだ」
散歩係がまたちびりと飲んだ。
(美味しかったなぁ、さっきのやつ)
トンカツの味を思い出しながら、また眠りについた。
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