オムライスの味

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オムライスの味

 そういえばこんなことがあった。 隆文と付き合ってから初めての私の誕生日。彼はとっても張り切っていて、初めて私のためにご飯を作ると言っていた。 「何が食べたい?」 と言われて、大好きな 「オムライス。」 と答えた。  隆文は、大学のテニスサークルで出会った。サークルといっても半分が飲み会、半分がテニスの練習といった、よくある大学のお遊びサークルみたいなものだった。お互いテニスを始めるのが大学から、と周りに経験者が多い中で珍しい2人だった。 だからこそ話の共通点が沢山あったし、一緒の練習グループに入ることが多かった。そこから付き合うまでに話はとんとん拍子で進み、気づけば友達から恋人と言う関係に発展していた。 「オムライスはデミグラスソースがいい。」 どんなオムライスも好きだったけど、中でもデミグラスソースがかかったオムライスが一番好きだった。 「分かった!頑張って作るから楽しみにしてて。」  隆文は日焼けした顔から白い歯を覗かせた。隆文のさらさらの髪も、それに似合わないゴツゴツした節の太い指も、子どものようにケラケラと笑うその姿も全部好きだ。なんたって隆文は、私の初めての彼氏だからだ。  誕生日当日はそわそわした。 「どうぞ。」 扉の向こうには隆文がいた。初めて隆文の部屋に招待された。指定された時間通りに行くと、ちょうどオムライスのなかのケチャップご飯だろうか、少し香ばしい匂いが漂ってきた。部屋はスッキリしていて、物はあまり無く、清潔な感じがした。 「座っててよ。もう出来るから。」 どぎまぎして玄関から動かない私を見かねて、中で手招きする。私は部屋の真ん中のテーブルの近くに座った。  「じやーん!特製オムライスです!」 机に置かれたオムライスは、何こ卵を使ってるんだと言うくらいふかふかで、デミグラスソースがたっぷりかかっててかてかと輝いていた。 「いただきます!」 手を合わせると、スプーンでご飯と卵をすくって夢中で食べた。口の中でふわふわの卵と酸味の効いたトマトが絡み合い、おまけに濃厚なデミグラスソースが全てを包み込んでいた。 「こんなオムライス初めて食べた!隆文くんお店出せるよ!」 好きな人が作るご飯が、こんなに幸せを運んでくれるなんて知らなかった。 「俺もこんな美味しそうに食べてくれる人が側にいて、幸せだよ。」 好きな人といると、幸せがどんどん増えていくことを、この時初めて私は教えて貰った。
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