いちごショートケーキの味

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いちごショートケーキの味

「久しぶり~」 ミカが大きく手を振る。今日は2人でディナーをすることになっていた。外はマフラーや手袋をしないと痛いような寒さで、少しでもミカを待たせているのが申し訳なかった。  ミカとは高校からの中で、社会人になった今も、こうして度々ご飯に行っている。 「ミカ、待たせてごめんね。」 「全然、私も今来たところだよ。お店入ろ~。」  待ち合わせていたのは洋風レストランで、リーズナブルと可愛いを売りにしているためか、店内は若いお客を中心に賑わっている。  窓側の席に案内されると、さっそくドリンクとご飯を頼む。ドリンクが来ると2人で乾杯をする。 「社会人辛いわ~。大学生に戻りたい!」 ミカが乾杯するとそうそう口を開く。 「確かに・・。」 私も便乗した。 「うちの部署さ、女の人が多言ってたでしょ。やっぱ女の先輩怖いわ~。優しい人もいるんだけどね。」  4月になってお互い社会人になった。そういえば前ご飯に行っていたときもそんな話をしていたような・・・。特に事務職に就いているミカの職場は女性が多いようだ。 「でもね、他の部署とかには男の人も多くて、目の保養になるわ~。まぁ付き合えるかどうかは別として。」 高校時代を思い出す。ミカは男の子との絡みも多いのと、明るい性格が相まって、私から見ると結構モテていた方だと思う。そのうち彼氏でも出来るだろう、と考えていると、料理が運ばれてきた。  パチパチと肉が焼ける匂いと、優しい卵の匂い。ミカがハンバーグで、わたしがデミグラスソースのオムライスだ。それぞれの料理が机に置かれる。 2人でいただきますをして、料理を食べ始めた。 「オムライス好きだね~。」 ミカはハンバーグにナイフを入れた。 「オムライス、ずーっと、好きなんだよね~。」  オムライスを食べると、2年前に付き合っていた隆文のことをどうしても思い出してしまう。  「あんなことがあった。」とか「こんなこともあった。」とか。2年経ってもどうしても思い出して、また引きずってしまう。そんなこんなで思い出しているうちにオムライスが美味しくなくなるから、いつまでも過去の恋愛を思い出す自分が嫌になる。 「佳奈は、最近恋愛はどうなの?」 「うーん。そんな進展とかなんもないなぁ・・・。」 「好きな人ってなかなか忘れられないくて、前に進めなかったりするよね。」  核心をつかれてしまって、少し俯く。私は前に進めてない、別れてからそのままだ。残りのオムライスを口の中に掻き込んだ。 「それだけ素敵な恋愛ができたってことでしょ。」 ミカもハンバーグを食べ切って、ナイフとフォークを置いた。 「今の気持ちを無理して捨てる必要もないし、無理やり次の恋愛に進む必要なんてないんだよ。」 「それでも私たちって、どんな形であれ毎日、前に進んで行ってるんだからさ。」 その時ふっと店の電気が消える。一瞬停電かと思ったが、そうでないことを確信した。ハッピーバースデーの歌とともに、バースデーケーキがわたしの元に運ばれた。 「誕生日おめでとう。今日は特別な日なんだから、自分を大切にしてあげよう。」 小さなケーキの上にはロウソクが優しく揺れる。 「さあ消して。」 私はふっと息を吹きかけた。1口ケーキを頬張ると、甘いクリームと、いちごの酸っぱさが心を満たしていく。 好きだった人と一緒にいた事実は消えない。 一緒にいた思い出も消えない。 それでも・・・ 大切な何かをずっと抱えながら、私はその日、前に一歩踏み出したことを確信した。
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