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その都議会議員は書類の束が入ったカバンを抱えて、深夜の道を速足で歩いていた。
「まったく何て事だ。こんなずさんな会計が2年も見過ごされたきたとは。あのユーチューバーとやらが騒いでいなかったら、危ないところだった」
中年のその都議は、不摂生で太った体を揺すりながら懸命に足を動かした。
「とにかく、このコピーを会派の会長に届けないと。都連の国会議員の先生たちにもだ。これ以上、こんな異常な税金の使い方を許しておいてなるものか」
2月の深夜で、雪が降ってもおかしくない寒さの中、都議は自分の事務所に向かって急いだ。
凍り付くような寒さの深夜であるため、路地に入ると辺りには人影はなく静まり返っていた。
低層ビルが立ち並ぶ裏通りで、都議は時々後ろを振り返りながらビクビクした様子で足を進める。
「まさか、尾行されちゃいないだろうな」
彼の頭上に何かの影が動いた。立ち並ぶ低層ビルの屋上を大きな影が軽やかに飛び移って行く。その影は明らかにその都議を追っていた。
都議が立ち止まり、呼吸を整えようとした時、彼の真上から大きな影が地面に向かって舞い降りた。
二対の白く光る先の尖った物が都議の体に突き刺さる。そのまま後に続く巨体が都議の体を地面に押し倒した。
都議は悲鳴を上げる間もなく絶命し、その体からどくどくと大量の血液が路面に流れて広がる。
彼の体は、後ろの首筋と腰の辺りを二対の槍の穂先のような牙で貫かれていた。
その巨大な四つ足の影は、牙を都議の体から引き抜き、そのまま宙に飛び上がって、低層ビルの屋上に降り立ち、そこから次々と他のビルの屋上を伝って夜の闇の中に姿を消した。
路上には都議の死体と、彼の血で真っ赤に染まって読めなくなった書類の束が転がっていた。
凍るように冷たい夜風が一瞬風速を増し、都議の血で染まったコートの裾をはためかせた。
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