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ゆらゆらと空へ溶けていく煙を、自室の窓から、ぼうっと見上げていた。
葬式には行かなかった。一体どんな顔をしていけばいいかわからなかった。どんな顔もできる気がしなかった。
事故だった。下校中、車が突っ込んできて、幼馴染に突き飛ばされたのを覚えている。
動けなかった。頭が真っ白になって、足がすくんで、突き飛ばされて、初めて恐怖で体が震えた。我に返っても、救急車も呼べず、ただ彼女を抱きしめることしかできなかった。
……意気地なしの、こんな自分が、生き残ってしまった。
後日、母から段ボールを渡された。
「形見。あんたにって」とだけ呟いて、母は俯いて、自室に入っていった。
カヤは自室に戻り、段ボールを前に膝を抱えた。
正直、開ける勇気はなかった。
愚痴や遺族からの恨み言の書かれた手紙なんかが同封されていたらどうしよう、なんて考えがぐるぐると頭をめぐり、ここでもまた、自分が意気地なしだということを実感して情けなくなった。
1時間ほど悩んだ末、カヤは段ボールのガムテープに手をかけた。ベリベリっと派手に音を立ててテープ剥がし、中を覗き込んだ。
「長靴……? いや、ブーツ、か?」
入っていたのは使い古されてボロボロのブーツだった。
黒いシンプルなデザイン。シンプルすぎて一見丈の短い長靴かと思ったが、よくよく目を凝らすと鈍い光沢があり、それでやっと革靴だとわかった。
隅々まで箱を調べたが、あとは空っぽだった。
情けなく危惧していたことが杞憂に終わって、カヤはなんだか拍子抜けしてしまったのと同時に、ぽつりと、「恨んでいいのに」と、独りごちた……はずだった。
「そりゃ殊勝なこったな」
とっさに、カヤは部屋を見渡した。だが自分以外誰もいない。
「空耳……?」ぽつりと呟くと
「じゃねえよ」と──声は目の前から、聞こえてきた。
「ブーツが喋った……!!」
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