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「いやぁ、狭いとこから出してくれてありがとよ」と、ブーツがひとりでに跳ねた。
それと同時にカヤの心臓もビクリと跳ねた。
目の前の得体の知れない物体にどう対応していいものか考えあぐねていると、ブーツの爪先近くにジッパーが現れ、それが勢いよく開いた。カヤには、それが口で、ニタリと笑ったように見えた。
その口……らしきものが、パクパクと動いていた。
「ボサボサの黒髪、ひょろひょろの痩せっぽっち。着古したパーカーに、有り合わせと言わんばかりのダボダボのそれは……半パン……か? ……なんというか、貧相な奴だな」
お前にだけは言われたくない。と、カヤは内心毒づいた。
「これが主人だなんて、先が思いやられるぜ」
「……主人?」
「なんだなんだ? あいつから、なぁんにも聞いてないのか?」
ブーツは、呆れ果てた、といった様子にカヤは見えた。
「あいつ……?」
「前の持ち主のことだよ。箱の中で聞こえたぜ? おっ死んじまったらしいじゃねえか。狩りとは全然関係ないことでよ」
『おっ死んじまった』のワードに、カヤは、うっと言葉に詰まったが、すぐに「狩り?」と眉間に皺を寄せた。
「こりゃ本当になんにも知らねえらしい」ふぅっとブーツはため息をついた。
カヤはわけがわからず、ただただブーツを前に正座をしていた。
「仕方ねえ。いちから教えてやろう!」ぴょん、とブーツは跳ねた。
「あいつは人知れず、俺を使ってゴーストを狩っていた、ゴーストハンターだった」
「は?」
カヤを置いてきぼりにして話は続く。
「この世にはな、俺達みたいな付喪神が宿った物を使ってゴーストを狩る、そんな人種が存在するのさ」
「そんなの、聞いたことない」
「表舞台にゃ出てこないからな。ゴーストを視れる奴は早死にが多いし」
ブーツはため息混じりにぼやく。
「付喪神が宿った物は数多あるが、それらと意思疎通ができる奴もそうそういねえ」
「だが!」と、ブーツは跳ねた。
「お前は俺と会話が成立している。お前ならきっとゴーストも見える! 後継者にピッタリってわけだ!」
「ちょ、ちょ、ちょっと待って──」
カヤは混乱する頭をフル回転させ、今の状況と話の内容を整理する。
目の前の喋るブーツは付喪神が宿っていて。幼馴染は実はゴーストハンターで。ブーツと会話できている自分は──
「僕にゴーストハンターになれってこと?」
「そうだけど?」ブーツは、けろっとした様子で、まるで首を傾げるように傾いた。
「むりむりむりむりむり──!!」
カヤはブンブンと首を振って後退った。
「絶対、無理!!」
「はあ?」
ブーツは怪訝そうにまた傾いたが、すぐに窓の方へ向かって、ぴょんと跳ねた。
「なら、ここで喰われるしかないわけだけど、いいのか?」
「へ……?」
窓の外には、見たことのない、おどろおどろしい大きな何かが、蠢いていた──。
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