私の知らない世界線

2/6

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 その後、居た堪れない空気と衝撃的な事実に耐えかね、綾女は自分の部屋で膝をついていた。 「なんなの? 一体どうなってるのよ……」  同時に涙が零れ落ちた。  みんな変だ。とっても。それとも自分が変なのだろうか。知らない間に頭を打って、それでとか──……等と、現実逃避まで始めたところで、馬鹿馬鹿しくなった。どちらにせよ状況は変わらないのだから同じことだ。今はただこの現実を受け入れる他ないのだ。  ため息をついたところで、喉が渇いていることに気付く。朝っぱらから走り回れば当然だ。綾女は立ち上がり、キッチンへと向かう。  がらんとした家に足音が響く。凝りすぎて逆に使いづらいクローゼットや、使われずぶら下がったままのハンモック等、父のこだわりとは相反して、家族で過ごした思い出はほとんどない。最後に両親が揃ったところを見たのはいつだったか。モデルルームのようなこの家の中で、典型的な幸せを感じたのはいつだったか。もう覚えていない。  キッチンに入ると、冷蔵庫の前にしゃがみ込む黒い背中がひとつ。どうやら冷蔵庫の中身を漁っているようだ。  110番が一瞬頭に浮かんだが、その案はすぐに消えた。この世界で、本当に警察に繋がるかわからないし、繋がったとしても出動しないかもしれない。なにより、綾女はもうこれ以上この世界のことを知りたくなかった。知って孤独感と絶望感に苛まれるくらいなら、いっそのこと、この不審者に危害を加えられる方がマシだと、綾女は口を開いた。 「あの、漁っても食べかけのコンビニ弁当ぐらいしか入ってませんよ」
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加