私の知らない世界線

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 男はビクッと肩を震わせて、ゆっくりと振り返った。  20代くらいだろうか。派手な柄のシャツを隠すように黒いコートを羽織った金髪のプリン頭。正直言って好感の持てる風貌ではなかった。 「そのようっスね」  と、男が肩をすくめたのと同時にぐるるる、と音がして、男はバツが悪そうに視線を逸らした。 「……冷えてなくていいなら、ゼリー飲料とかなら、ありますけど」  余程腹を空かせていたのだろう。男はゼリー飲料を5個、ついでに食べかけの弁当もたいらげ、腹の方はいくらかマシになったらしい。ただの水道水のグラスを傾けて、笑みを浮かべていた。 「いやぁ、助かりました。ごちそうさまでしたっス」 「お粗末さまでした」  本当に粗末だなぁ、と思いつつ定型文を返す。こういうのは形が大切なのだと思う。  そしてふと我に返った。なぜ自分は不法侵入者に食事を振る舞っているのだろう。この実に奇妙な状況を自然と受け入れていた自分を不気味に思った。
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