「俺…小説家になろう思ててん」

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「俺…小説家になろう思ててん」

 相方の畑野(はたの)は突拍子もなく意外な胸中を口にした。いつもの天然ボケかと思ったが、本人はそんな素振りを見せず至って真面目な顔をしていた。少なくともフリではないようだ。 「はぁ?」  今は“「はぁ?」って言うゲーム”をやっている状況ではない。下村マネージャーから今期一年間のマネージメント契約更新の話があった。「今年一年も続けるのか?」と言う事で三者が集まり、事務所の一室で真面目な話をしている状況だ。こんな場で即興漫才をやっている時でもない。 「ボケでも何でもなく、今年から小説家になるべく活動してみよう思ててん」 「ちょっと待て、そんな話、今、初めて聞いたぞ?」  僕と畑野の関係は事務所の養成所で出会い、畑野が一期上の先輩になる。割と何でも話し合うような間柄で、今までに彼女が何人居て何回フラレたか? まで知っているコンビ仲だ。これでも畑野の事は何でも知っているつもりだった。 「俺も今初めて言ったからな。黙っててすまん」  畑野は僕に一礼して無礼を詫びたが、それで済ませられるような話はではない。 「畑野さん、これまでに何か作品を書いたり応募した事はお有りですか?」  下村が至極真っ当な質問をした。下村も何も知らない状態のようだ。 「いや、これから書こう思てて、今見せられるもんは何も無いです」 「お気持ちを表明するんやったら見せられるもん持ってこいや」  畑野の天然ボケが炸裂したようだ。誰もが真っ先に考える事をしないで口が先に動く。畑野はそう言う人間だ。
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