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 向かい側に座った瞬間から彼女の事が気になっていた。  2メートル先、彼女は楽しそうに携帯を操作していた。  明るい茶髪のショートヘアにパステルカラーの紫色のメッシュが入っていて、大きなヘッドホンを着けている。  時々顔を上げて何かを想像する様に斜め上に視線を向けて笑っていた。  その顔がかわいいと思った。  しばらく眺めていると、彼女の視線が斜め上からそのまま建物の入口に向いた。  彼女の笑顔が消えるのと同時に、耳を塞ぎたくなるほどの悲鳴が聞こえた。  悲鳴を上げながら俺の前を走り抜けていく人々。  その後ろから少年が入って来た。  血(まみ)れの服を着ている。  息が乱れていてキョロキョロと何かを探している様に見えた。 「マジか…」  奥の受付近くにいた警備員が駆け寄ってくる。  血塗れの少年に掴み掛かろうとしたその時、いつの間にかそこに来ていた彼女が、手を伸ばして警備員を制した。  少年の方を向いた彼女はパニックになっている彼の両頬を片手で掴み、一呼吸してからまさかの頭突きを喰らわせた。  尻もちをついた彼と目線を合わせる様に膝をついて、彼女が自分の耳元で手を動かした。 「あ…手話」  俺は呟いた。  シンと静まり返った空間で、しばらく手話でやり取りをした後、彼女は震える少年をギュッと力いっぱい抱きしめた。  すると彼が大声で泣き出した。  彼女は優しい笑顔で彼に手話をして、それから携帯でやり取りを始めた。  そしてまた手話でやり取りをすると、2人で立ち上がった。  俺たちは何もできずただ見つめているだけだった。  彼女は自分の上着を脱ぎ、彼に着せると、少し悪い顔をして泣き真似と何かを手話でした。  彼も少し悪い顔をしながら笑って耳元で手を動かしていた。  彼女が拳で彼の肩を押して、めちゃくちゃ笑顔になった。  その笑顔に何故だか胸が熱くなった。  ヘッドホンを首にずらした彼女が携帯で電話をかけた。 「もしもし、人が死んでるみたいです」  半袖には寒すぎる11月、彼女は彼と2人で外へ出て行った。 「喋った…」 …て言うか、人が死んでるって何⁈
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