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 建物内は暫くザワザワとしていたが、逃げ込んだ人たちが去り、やがて警備員が交代し、何事もなかったかの様に元通りになっていた。  30分後に彼女が戻って来た。1人だった。  ヘッドホンは耳に戻っていた。  前屈みになった彼女はクロスさせた両腕をさすりながら、置きっぱなしだった自分のバッグの方へ向かう。  俺は駆け寄って、後ろから自分のジャケットを彼女の肩にかけた。 「わッ」  彼女が驚いて声を上げた。 「あ‼︎ごめん」  振り向いた彼女がヘッドホンをずらしながら俺を見た。 「急にごめん」 「ありがとうー。寒くて死ぬかと思ってた‼︎」  彼女は声を出して笑った。 「あの…」 「ん?」 「僕、時枝(こう)と言います」 「……知ってる‼︎え⁈あぁー…」  俺の顔をじっと見て名前と顔を一致させたみたいだ。  まさか知ってるなんて思いもしなかった。 「何でここにいるの?」 「あ、兄と待ち合わせしてて…。何か1時間近く連絡つかないんですけど」 「アイドルに待ちぼうけさせちゃダメだよねー」 「あの…名前、聞いてもいいですか?」 「私?藍那(あいな)」 「あの、藍那さん」 「ん?」 「さっき手話、してましたよね?」 「あぁ、うん」 「何があったんですか?」
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