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 入江藍那、20歳。  とある出版社のエントランスホールで執筆中。  バイト終わりに突然舞い降りたアイデアを忘れないうちに…という事でこの様な状況だ。  突然閃いて一気に書くのが私のスタイル。  書き進めていくと主人公たちが勝手に動き始めて物語が進んでいく。  私はいつも不思議な感覚で書いていた。  主人公に意識がシンクロしていつの間にか泣いていたり、笑っていたり…  (はた)から見たらかなりヤバいと思う。  執筆中は自分の世界に没頭するために高遮音のイヤーマフをしている。  今では愛用品となったこれを買ったきっかけは、無音の世界を知るためだった…。  静かだ…とは言え、完全な遮音にはならず遠くでぼんやりと音が聞こえる。  目の端に駆け込んで来る人が見えた。  後ろから血塗れの男の子がついて来ていた。  彼の手が"助けて"と言っていた。  彼の顔が"助けて"と言っていた。  行かない理由がなかった。  パニックになっていて視線が合わなかった。  このままじゃ会話にならない。  他に思いつかなくて頭突きすると、男の子が尻もちをついた。  やっと視線が合って、私が  "耳、聞こえない?"  と聞くと、彼は頷いた。  "手話できる?"  また頷いた。  "その血は君のケガ?"  には首を振った。  "何があったの?"  と聞いたら、彼は震え出した。  手も上手く動かせずにいた。  思わず抱きしめて背中をさすった。  泣き出した男の子を落ち着くまでずっと抱きしめていた。  視線を合わせ  "大丈夫。私が全部聞くから"  "人が…"  うん?と首を(かたむ)けると  "人が死んでる"  と彼は言った。  "死んでる?"  彼は頷く。  "住所わかる?"  首を振る。  "近くの建物の名前とかわかる?"  首を振る。  "場所、覚えてる?"  自分の携帯のマップを見せてみた。  彼は向きを変えて地図を見ると、ここから割と近くの入り組んだ道にポイントをおいた。  その場所の住所を確認する。  "私、警察に電話するから、一緒に行こう。案内できる?"  "できる"  2人で立ち上がった。  行こうとする彼を止めて自分の上着を脱いで着せてあげた。  血塗れでまた外に出すわけにいかない。  彼の涙を拭いてやって  "泣いてんじゃないよ"  と言うと  "うるせぇよ"  と返してきた。  笑ってた。良かった。  ほっとして私も笑い返した。  警察に電話をしながら現場に向かった。  地図の場所に確かに人が倒れていた。  腹部にナイフが刺さっていた。意識はあった。  手が血塗れだった。  この手で彼に触ったのだろう。  ナイフを抜くのは良くないとドラマで観たことがある。  警官が来るまで見守るしかなかった。  "名前、何て言うの?"  "イチハラレン"  "イリエアイナ"  雑談をしているとレンの背後に男が見えた。 「クソ‼︎生きてやがった‼︎」  私は咄嗟にレンの頭を抱えた。  ヤバい‼︎犯人が確認しに戻って来たんだ。  倒れた人にとどめを刺すのかと思いきや、こっちに向かって来た。  レンを抱えたまま叫んだ。  タイミング良く警官が来て男を地面に押し付けて動きを制した。 「クソ‼︎お前ら‼︎‼︎ぶっ殺してやる‼︎」  自分自身にぶつけられる強い怒りに衝撃を受けた。  怖いと思った。  14歳のレンが見なくて良かった。  聞こえなくて良かった…。  レンがモゴモゴ動いていた。  いつの間にか抱き抱える手に力が入りすぎていた。  レンを離すと少し赤い顔をして  "何?"  と言ってきた。  "何でもないよ。警官来た"  と言うと振り返った。  犯人はもう連れて行かれた後で、刺された人もすぐに救急車で運ばれて行った。  レンが心配だった私は連絡先を交換して友達になった。  メンズサイズのジャンパーは私よりレンの方が似合っていた。  "その上着、似合うからあげる"  "いいの?これ、カッコいい‼︎"  レンが笑った。
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