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 4月のイベントが終わった。  どこに行っても同じ様な事を聞かれ、同じ様に答える。  機械になったみたいだ。  俺は毎回自分の中のスイッチみたいなものを切る様な感覚でいた。  嫌な汗が出る。  3月に行われた12日間のミニライブについてコメントが読まれる。 『洸くんのギター、最高でした』 『洸くん歌もギターも手話も何でもできて凄すぎる』 『洸くんのソロパートが好き』 『洸くんダンスも完璧でヤバすぎ』  俺だけを褒めないで…。 『洸くんの影響で手話始めました』 『洸くん何でもできちゃう。すごい』  ファンの声が俺を押し潰して、メンバーとの距離を作る。  俺は、何がしたいんだろう…?  どうしたらいいんだろう…?  気持ちを吐き出す場所がない。  涙を流す場所がない。  一緒に頑張ってきたメンバーと笑い合えなくなっていく。 「ねぇ、兄ちゃん…」 「どした?」 「藍那、兄ちゃんの会社に就職したかな?」 「アイナ?何アイナ?」 「あー…俺、知らないや…」 「苗字わかんなきゃ探せないなぁ…」 「茶髪で、紫のメッシュが入ってる」 「あー…。前に編集部でバイトしてた子か‼︎最近見ないよ?辞めちゃったみたい」 「そっかー…いないのかー…」 「もしもし?洸、お前大丈夫か?」  俺はもう限界だったみたいだ。
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