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私が快斗と出会ったのは3年近く前、高3になりたての時だった。
快斗は大学4年生だった。
小説家か脚本家になりたいと思っていた私は大学に行くか、専門に行くか悩んでいた。
[小説家を目指すなら]
そう書かれた学部のある大学を検索しては見に行っていた。
その中に快斗の大学があった。
見に行くとは言っても、別に中に入って見学をしていたわけではなかった。
外から眺めてインスピレーションを感じるかどうか、それを確かめに行っていた。
ぼんやりと人の流れを見ていた。
急にガシャンと大きな音がして、目を向けた。
歩道に置かれた配達のバイクにぶつかって倒れている人がいた。
バイクの下に脚が挟まっていた。
結構な音がしたのに振り返りもせずに行こうとする男の腕を引っ張った。
「ちょっと無視するなんておかしくない⁈助けなよ‼︎」
男は腕を振り払って驚いた顔で私を見た。
「何⁈早く‼︎私じゃ持ち上げられない‼︎」
バイクを指差すと男がバイクに駆け寄った。
バイクを立てると、脚を挟んでいた女性に肩を貸し立たせていた。
泣きそうな顔をしていた。
そしてその顔で私を見た。
その顔が"助けて"って言ってるみたいに感じた。
「大丈夫ですか?」
「はい。すみません」
少し離れた所に杖が転がっていた。
「あの、これ…」
「あ、ありがとうございます。すみません」
私は泣いた。
目の見えないこの人が当たり前みたいに謝るのが悔しかった。
バイクを蹴り倒してやりたかった。
男は泣いてる私にタオルを差し出してくれた。
優しい顔で、泣きそうな顔で、笑っていた。
男が携帯を操作して、私に見せてきた。
『気づけなくてごめんね』
顔を見ると耳を指差して、それから指でバツを作った。
「ごめ…」
私は泣きながら、このまま胸が潰れてしまうんじゃないかと思った。
そんな私の側にずっといてくれた…それが快斗だった。
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