第7話 刀の声を忘れるな

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※ 「あの二人、役人に捕まったそうですよ。今朝、若先生のところに奉行所の役人がきていましたから」  井戸端で、諸肌になって汗を拭っていた歳三は振り返った。  側では、しゃがんだ姿勢で三毛猫の頭を撫でている総司がいる。 「やっぱり、訳ありの連中だったのか?」 「これから商家に盗みに入ろうという所だったみたいで」  彼らは用心棒と称して商家に入り、どこに大金があるか確認したあとに盗むという手口を何度か繰り返していたらしい。 「よくもまぁ、これまで捕まらずにいたもんだな」 「盗られた方も訳ありかも知れませんよ。最近はこの江戸でも、異人と商いをするものが多いそうですから」 「その話なら聞いたことがある。さらにその商人を侍が襲っていることもな」 「詳しいですねぇ」 「ある風来坊から聞いたのさ。袈裟懸けでばっさり、だそうだぜ」 「昨夜の彼ら、ではありませんね」  以外だったのは、男たちと助太刀に入った左之助が顔見知りだったことだ。  左之助曰く、ある商家に用心棒で雇われ、そこで彼らとであったという。 「侍が盗みをするようじゃあ、外道だ」 「外道ですか……。面白いことをいいますね」 乱闘の最中、通りかかった夜鳴き蕎麦やに悲鳴をあげられ、浪人たちは逃げ出した。しかし、乱闘の痛手はかなりだったらしく、追いついた取り方に捕まってしまったようだ。  そのあと、試衛館に奉行所から礼金が出たらしい。どおりで、勇の機嫌が妙にいいはずである。 「刀で人を脅すなんざ、外道だ。そんな奴ら相手に、剣を汚すことはねぇ。道を外れたらもう刀の声は聞こえねぇのさ」 「やっぱり、土方さんは面白い」 「武士になったからには、いつかは真剣を抜いて人を斬る事があるかも知れねぇ。だとしても俺は、つまらねぇ理由で人を斬りたくねぇ」  総司はどんな表情で、歳三の話を聞いていたのだろう。背を向けた姿からでは、それを知ることはできない。  道場から歳三が戻ると、勇と左之助が酒盛りをしていた。 「よぉ。土方さん」  左之助は歳三より少し背が高く、腕を回してきた。 「よぉじゃねぇ。早く出て行け」 「冷てぇなぁ。昨夜の恩人を」 「お前が勝手に割り込んできたんだろうが!」 「トシ、お前も呑め。原田くんの歓迎会だ」 「は?」 「ということで、これからよろしくな?」  どうやら道場に行っている間に、左之助を試衛館に置くことになったらしい。礼金が出て嬉しいのは歳三にもわかるが、いつまで保つことか。 庭では、桜が舞う。はらり、またはらりと。 (春はもう終わりだな……)  来年の春、俺たちはどうなっているだろうか。歳三はそんな事を思いながら、舞い散る花弁を見つめていた。
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