第8話 旅は道連れ世は情け

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                  ※  久しぶりの江戸は、真面目に生きていこうという浪人たちにとっては多少生きにくい場となっていた。  やはり開国し、異人にこの国の地を踏ませた幕府への不満がきっかけのようである。 嘉永六年と翌年の嘉永七年に江戸湾沖に現れた異国船によって、長年続いたこの国の鎖国体制は崩れた。  だが異国との条約締結が帝の意向を無視したものだったらしく、尊王攘夷なる動きが広まったという。尊王攘夷は「帝を敬い、異国をこの国から追い払う」という意味らしい。  そんななかで士官口もなく、食い詰めた浪人たちが、こうなったのは幕府のせいと狼藉をはたらき、他の関係ない浪人までも同類とみなされていることだ。これでは士官など無理だろう。  新八も平助も士官する気はなかったが、持ち金の底が見え始めていた。 「これからどうなるかわからんというのに、よく食うな?」  掘割近くの飯屋――、時刻は九ツ半。丼飯を口にかきこんでいる藤堂平助に呆れながら、永倉新八は杯を口に運んでいた。 「腹が減っては戦はできぬっていうじゃねぇか」 「お前も、攘夷をするつもりか?」 「もののたとえってやつさ。あ~あ、どこかただ飯食わしてくれて、いつまでいても構わないというところはねぇかなぁ」 「厚かましいやつだな。そんなところがあるわけがなかろう」 「案外あるかも知れないぜ?新八っつぁん。ほら、この間会った変なやつ」 「試衛館の沖田総司か?」  新八の脳裏に、数日前に出会ったその青年の顔が浮かぶ。 「そうそいつ。聞けば俺たちと話が合うみたいだし」 「押しかけるつもりか?相手がどんな連中かもわからんのに。門前払いをくうだろうよ。同門のところでさえ、金がなければ放り出されるのだ」  そんな新八の背後から「失礼する」という声がかかった。  振り向けば、両腕を組んで微笑んでいる羽織袴の男が立っていた。 「いやぁ、貴公たちのらの話が耳に入ってなぁ。なるほど、総司が言っていた面白い人たちとは貴公たちのことか。あ、申し遅れた。俺、いや(それがし)は試衛館道場四代目・近藤勇と申す」  新八は驚いた。なんとよければうちに来ないかという。  平助がくすくす笑いながら、小声で新八に言ってくる。「ほら、あっただろ?俺たちを置いてくれるところ」と。  まさにこの世はなにがおこるかわからない。捨てる神あれば拾う神ありとは、よく言ったものである。 
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