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朝食と惚気
身支度を終えたら、部屋を出て階段を降りる。降りきってすぐ目の前にある引き戸を開けると、リビングには確かに美味しそうな匂いが充満していた。
「おはよう、陸斗。凪ちゃん、いつもありがとうね。はい、卵焼きどうぞ」
「わーい! おばさんの卵焼き食べるためなら何度でも起こしに行きますから!」
「ふふ、ありがたいわぁ。これからもよろしくね」
キッチンで出来立ての卵焼きを幸せそうに頬張る委員長を尻目に、ダイニングテーブルの自分の定位置に座ると、すでに目の前には母さんが作ってくれた朝食が並べられていた。
白米、わかめの味噌汁、卵焼き、漬物。母さんの料理の腕は相当なもので毎日同じメニューでもその美味しさに文句を言うことができない。
「さっさと食べて顔洗って来なさい」
「はーい、メシありがと。いただきます」
『食事を作ってくれる母さんへの感謝を決して忘れるな』
これは、今は出張で家を空けている父さんの言葉だ。
洗濯や掃除などある程度の家事はできるのに料理だけは壊滅的な父さんは、料理を作るのはどれだけ大変なことなのか、母さんが作ってくれる料理がどれほど美味しいのか、当時五歳の俺に懇々と説明していた。その光景は、母さんから見れば滑稽なものだったそうだが、俺にしっかりと教えが染み付いていることを考えると、父さんは真剣だったのだろう。
しかし、今考えれば随分な惚気を聞かされていたものだ。
ちなみに、一日一回母さんにかかってくる父さんの電話の始まりは「母さんの料理が食べたい」だ。
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