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テンプレート……?
すでに玄関で靴を履いて家を出る準備を終えている委員長の元へ行き、玄関脇のポールハンガーに掛かっているコートを羽織り、靴を履く。
「じゃあ、おばさん。いってきます!」
「いってきまーす」
「いってらっしゃい、二人とも。気をつけてね」
母さんに見送られ、俺たちは連れ立って家を出る。
「ねえリク。今日の宿題、やった?」
「え? あー、うん」
「嘘だね。どうせやってないんでしょ」
「わかってるならわざわざ聞くなよ」
「億が一の可能性に賭けたんだよ。じゃあ、また昼休みにやるよ」
「あざっす、委員長サマ」
家を出てすぐの宿題やったかチェックも、宿題締め切り当日の朝はいつもやっていることだ。そして、十中八九俺はやってない。委員長もとっくにそれをわかっているため、毎回昼休みに俺の宿題を手伝ってくれる。もちろん、答えを写させてくれるわけではなく、わからないところがあったらヒントをくれる程度なのだが。
「あのさぁ……」
と、軽口を叩き合っていると、委員長が複雑な表情を浮かべてこちらを伺うように見た。
これもまた、テンプレートだ。
「いつまで委員長呼びなの?」
俺がこいつのことを委員長と呼び出したのは、小学校四年生の春。それ以前は名前で呼び合っていたのだが、思春期真っ只中の他の男子に「お前ら付き合ってるのかよー!」と、低レベルな揶揄いを受け、それを避けるために、学級委員長を務めていたあいつを「委員長」と呼び始めた。以来七年間、戻す機会を失ってそのまま「委員長」と呼び続けているのだ。
「まあ、直す気無いの知ってるけど……」
なんだかんだで今も委員長やってるし、とかボソボソと言っている委員長の独り言を聞きながら、俺は委員長の隣を歩いていた足を止める。
決めていたんだ。お前のその一言に、返す言葉。
「ナギ」
「何……え? いま」
「好きだ」
この一言で、俺のテンプレートな一日は、特別な一日になる。
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