0

1/1
前へ
/1ページ
次へ

0

ざり、ざり……と、古い石畳を覆う砂が踏み締められる度に耳障りな音を立てる。 自身から漏れ出る液体が、ぼたぼたと垂れてその石畳を汚し、更に不快な音に変化させる。 軋み、崩れ落ちそうな体を必死に動かしていると聳え立つ巨大な門が視界に入ってきた。 風が吹き抜け、ガタガタとその門を揺らす。 もしかしたら、人がいるかもしれない。 いなくても、火を使えるかもしれない。 そう考えながら、彼は重い足を引きずるようにしてすがるように歩き続ける。 しばらく歩いていくと、正面から長身痩躯の黒い髪の青年が剣を構えてこちらに向かってくる。 金属質な、けたたましい音を立てている足の下は沼のように感じる程、動くのが億劫だった。青年は剣を持ち上げ、睨む。 「お前は誰だ」 「ワタシはシァンフ、生活サポートアンドロイドです」 「は?…あん……何だと?……つまり、何だ。お前は、機械人形か。」 「ご主人様の生活を支えるAIを搭載しております。指示をお聞かせ下さい。」 青年は困惑しながら、それでも剣を下ろして僅かに警戒を解いた。だが、未だ剣をすぐに抜ける体勢を取っていることには変わりない。 シァンフと名乗った深い海の水底のようにくらい青色の髪の少女人形は上品に、ぼろけて汚れたスカートを摘んでお辞儀をしてみせる。礼節を欠く女では無いのか、何て考えながら青年は少女を観察していた。 人間ではないから、彼女は指示があるまで動かない。その為、随分と長い間青年は少女の姿の観察をしていた。 陶器のような白い肌、人間そっくりの顔立ち、それにそぐわないような金属音を立てる足元。もしかしたら、義足のような物をつけているのかもしれない。足音を聞く限り、靴底もすり減ってしまっているようだ。ボロボロの解れたドレスは、シンプルでいてインテリアのようにならない、装飾の精巧さがある。サラサラだったであろう髪はボサボサで、絡まっている。オパールのような不思議な輝きを秘めた乳白色の瞳は、人間みを帯びずにむしろ機械だということを強調しているようだった。 「お前、シアン…だったか?」 「シァンフと申します」 「言いづらいからシアンって呼ぶよ。…お前、行く宛てが無いの」 「ございません」 「そ。…じゃあ、此処を降りてすぐの館に行くといい。機会整備士の爺さんがいる」 「それは命令ですか」 「おれのとこでは匿えない。あの城は城主とおれ以外、誰も入ることが出来ない。城主が決めてるんだ。だから、他を当たってくれ」 無機質なオパールが、一瞬潤んだように見えた。きっと廃棄の時に同情を誘う為に設定されているのだ。そうに違いない。青年はそう考えながら、少女人形を追い出すように言って踵を返した。 少女人形は青年の背が見えなくなるまで眺めていたが、その青年が門の内側に入ってしまった瞬間少女人形はけたたましい金属音を立てて崩れ落ちた。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加