Fear

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 重苦しい空気をレジの方から感じながら時間が過ぎてゆく。 「戻りました」 女性の明るい声が空気を変えた。佐々木さんだ。 「おかえりなさい」 「何か疲れてない?田中くんもちょっと暗くない?」 「大丈夫です。ちょっと案件がありまして……」 私は小物入れのお客さんの引き継ぎを行い、2人して『元気出して』と慰められた。佐々木さんは余計なこともよく言うが人をまとめたりフォローするのが上手い。今回のことも彼女であれば良かったのかもと実力不足を実感した。 「柳さん、休憩いってらっしゃい」 「行ってきます」 私はスマホを取り出して高宮さんへとメッセージを送る。 『休憩に入りました。どこにいますか?』 ツイていないことが多い今日だったが、お弁当を持ってきていないことは怪我の功名かもしれない。 『駅側の入り口です』 『すぐ行きます!』 私はエスカレーターを降りて急ぎ足で向かった。自動扉を出て、高宮さんをみつけて声をかけようとする。が、女性に声をかけられた。 「柳さん」 後ろに振り向くとドーナツ店で働くアミちゃんが立っていた。制服ではなく、可愛いワンピースを着ている。またシフトを聞きにきたのだろう。田中さんはまだレジに居るはずだ。 「お疲れ様です。田中さんなら……」 「柳さんって残酷ですよね。ユウくんの気持ちも考えずにひどい。ユウくんは絶対悲しんでるのに」 いつもの明るい笑顔は見られず、冷たい表情の中、目だけが涙で輝いていた。涙の向こうには怒りが見える。 「……何のことですか?」 アミちゃんのことだから田中さんが関係しているのだろう。ただ検討がつかない。高宮さんとの待ち合わせの時に会ったことぐらいだが、アミちゃんに怒られることではないように思えた。 「分からないんですか。本当に?柳さんは……どうして……」 彼女に服を掴まれて、一気に距離が近くなった。アミちゃんの言葉は続かないが、大きく見開いた目が炎のように燃えているかのようだった。引結んだ唇が怒りで歪んでいる。何かを訴えかけるように彼女は私の目を見ていた。怒られている。理由が分からないのに私はただ謝った。この瞬間からすぐ離れたかったからだ。 「すみませんでした」 「何も分からないのに謝らないで!」 彼女に体を揺らされて私の頭は真っ白になる。直接向けられた感情に私の目から涙が溢れた。
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