Fear

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 一通り思い出して泣き終わると私の心は落ち着いてきていた。手に持っているココアは冷めていて、涙を流した目が熱かった。彼の香りに未だ包まれている。 「俺も怒られるのは怖いです」  沈んだような声に目を上げた。彼は目を伏せて少し暗い目をしている。彼の方が泣きそうに見えた。 「怒られるのを怖がって何もできずに後悔していることが今もあります」  私もあの時部屋を出なかったことを後悔している。 「なので理不尽な怒りには屈しません」 「……強いですね」 「興味がないだけですよ。他人が怒るのは勝手に私に理想を押し付けているからです。知らない人間の期待に応える必要はない」 「知っている人なら?」  お客さんはともかく、田中さんやアミちゃんとは仲は悪くなかったはずだった。両親も……。 「怒っている理由を考えましょう。ただストレスが溜まっていただけなこともよくあるでしょう。その時は彼らも『大変だな』と思ってやり過ごせばいい」 「自分に怒っていて、理由が分かれば対処できるのかを考えます。貴女が悪くないことで謝る必要はありません」  彼は簡単に難しいことを言った。 「それでも怖かったら?」  声を聞くだけで怖いのだ。理由を考える余裕なんてない。彼が私の体の位置を向き合うように変えた。優しい笑みが浮かんでいる。 「俺の元に来てください」 「俺がずっと貴女を守ります」 「貴女の心が穏やかになるまで側に居ます」 彼の甘い声に委ねてしまいたくなる。 「2人なら対処法も問題点も思い浮かぶはずです」 「……はい」  私の目からまた涙が一粒だけ流れた。誰かに相談すれば何とかなるのだろうか。いつか家族のことを彼に相談できる日が来て欲しい。まだその勇気は湧いてこなかった。 「ありがとうございます」  怒らずに見捨てずについていてくれた彼の想いが嬉しい。彼の手が私の涙を拭き去った。 「あの」 「はい」 今度は彼の方がバツが悪そうに眉を下げた。 「先程はああは言いましたが貴女や親しい人には親身になりますので……。適当にあしらうことはありません。必ず不安は取り除きます」 「はい。ありがとうございます」 男の人の大きい手が私の頬を撫でた。愛おしそうに優しく触れる温もりに、私は目を閉じた。頬に彼がキスをしたのを感じた。
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