2/11
221人が本棚に入れています
本棚に追加
/96ページ
 ──そういう意味じゃないです!  ──ごめん、冗談だよ。約束通り怖いことは絶対にしないから安心して  からかいから一転した真摯なフォローに胸を撫で下ろすも、ショウさんを信じていますと、念のため牽制を含めた返信を送っておく。  ドアにもたれかかり、勢いよく流れ去っていく窓の向こうの景色を眺めながら、本当に大丈夫だろうかと考える。  これから、顔も声も知らない相手と電車内で痴漢プレイをする。冷静に考えれば、どうかしている。もしも盗撮されていたら。プレイが終わってから脅迫されたら。悪いことを考え出せばキリがない。  それでも「しない」という選択肢はなかった。自分の性指向を二十七年間、誰にも打ち明けることなく、誰とも恋愛することなく生きてきた結果、盆休みに実家へ帰ったら親から見合いを強く勧められた。断る理由が見出せず、流されるまま見ず知らずの女性と四つ星ホテルのラウンジで顔合わせをした。ストレートの面を被って死ぬまで生きていくというレールに乗せられた瞬間だった。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!