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 ガラス越しに映る自分の、すこしエラの張った薄い顔立ちが不安げになっているのを見て緊張が高まった。もう後戻りはできない。数分後には事が始まるのだと思うと、否が応でも心拍数は上がっていく。拓真は胃の底が落ち着かない気持ちを抱えながら、ぎゅっとスマホを握った。  人波と一緒に揺られながら、ほどなくして列車はK駅に到着した。降りる人よりも乗ってくる人の方が多く、身体への圧が強くなっていく。拓真は交わした約束を守るために、手すりを握りしめて、自分の場所を守った。  背後で乗客が蠢くのを感じていると、誰かがぐっと背中に寄りかかってきたのが伝わった。不可抗力ではなく意図的な接触。逸りだす心臓に呼応するように、スマホが震えた。  ──今、後ろにいる。もしタクだったら両肩すくめてみて  拓真は両肩を上げて、スマホをポケットにしまった。それを見計らったかのように、太腿に存在感のある手が這った。撫でるように指先が丁寧に動く。男が触る箇所から電気が走り、ぞわりと腹が震えた。 「身体細いな。ちゃんと食ってる?」  突然耳元で囁かれて、反射で肩が上がった。甘くとろけて、情欲を誘う声。
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