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まもなく、J駅に到着します。お出口は左側です。流暢な女性アナウンスが車内に流れる。窮屈からようやく解放されると安堵の空気が車内に流れる中、拓真はショウを呆然と見つめた。
「ミホ、大丈夫?」
隣から、小声で様子をうかがう女性の声が聞こえた。
「ごめ……なんか画面酔いしたっぽい。さすがにスマホの画面じゃ推しの指輪の特定は厳しかった」
「なにやってんのよ。次で降りる?」
「うん、このまま乗り続けてたら吐きそう」
お願いだから我慢して、と鋭い声を耳にしながら、キモいのは自分達のことではなかったと知る。本来ならば安堵し喜ぶべきところだろうが、今はそれどころではなかった。
拓真は戸惑うように揺れている瞳を見つめながら、口から声をこぼす。
「狗丸さん……ですか?」
目の前にいるのは、拓真が三年前に制作ライターとして入社した広告代理店「株式会社ディライト・エージェンシー」の営業部のエース、狗丸 翔平だった。
「……お疲れ、鮎ヶ瀬」
教えていない苗字を呼ばれて、頭が真っ白になる。盗撮、盗聴、ゆすり。悪夢が脳内を駆け巡った。
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