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休日の午前だというのに、私鉄T線の車内は都心部に向かう人でごったがえしていた。
九月最初の日曜日、どことなく夏休みを引きずった賑やかな電車内で、鮎ヶ瀬拓真は押し合う肩をじりと動かして、胸の前で握りしめていたスマホの液晶を見る。
ゲイ専用マッチングアプリAmberでマッチングしたショウとのメッセージボックス。明日よろしくね。こちらこそ。昨夜の履歴を眺めながら、あらかじめ入力していた文章を送信した。
──ショウさんおはようございます。今午前十時三分K駅発の急行に乗りました。先頭車両の一番前、運転席側のドア横付近にいます
──了解。次のO駅で乗るわ。目印ある?
すぐに返信が来て、心臓が跳ねた。指先に伝わる鼓動を感じながら、液晶の上に指を滑らせる。
──黒髪ショートでウェーブかかってます。あとネイビーのゆるめのTシャツ着てます
──ゆるめ笑 もしかして胸も触って欲しい?笑
あけすけな言葉にぎょっとして、おもわず液晶を胸に寄せて隠す。これから自分がする行為をあらためて突きつけられたようで、羞恥が足元から迫り上がってくる。
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