Episode3・うららかな昼下がり、北離宮の主人は

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「こらっ、どうしてそんないじわる言うんですか。分かってて言いましたねっ」 「見ていられませんわ。甘やかしすぎなのよ」 「そんなこと言って。クロードはまだ五歳ですよ」 「勇者と冥王は赤ん坊の時に覚醒していたじゃない」 「クロードにはクロードのペースがあるんです。焦らせてはいけません」 「調子に乗らせすぎですわ」 「五歳は調子に乗ってもいいんです」 「魔界の中枢はそんな甘い場所じゃなくってよ」 「それはクロードも分かっています。だから気にしてるんじゃないですか」  メルディナに言い聞かせました。  メルディナがクロードに覚醒を急かせる気持ちは分かります。これはメルディナなりの愛情で、クロードを守るためでもあるのです。  しかしまだ覚醒していないことを一番気にしているのはクロードでした。以前より悩まなくなりましたが、それでもクロードが気にしていないことはないのです。 「クロード、大丈夫ですよ。こういうのは自分のペースでいいんです」 「ブレイラっ……」 「勇者も冥王も自分のペースで赤ん坊の時に覚醒しましたわ」 「うっ、にーさまたち、あかちゃんのときっ……!」 「こら、メルディナっ」  隙あらば追い打ちをかけるメルディナ。  もう目が離せませんね。 「クロードはたしかにまだ覚醒していませんが、とっても優秀なんです。講師の方々も驚いているくらいですよ」  私がフォローするとクロードがぴくりっと反応しました。  座学全般はクロードの得意分野です。これで調子を取り戻してくれれば……。 「は、はい。わたし、たくさんおべんきょうしてるんです。むずかしいほんもよみます。よしゅうふくしゅうもわすれませんっ」 「ふーん、まあまあやるじゃない」 「まあまあ……」 「まあまあではありませんっ。クロード、これはとってもスゴイことなのですよっ」  すかさずフォローしました。  しかしメルディナのクロードチェックは続いてしまいます。 「座学は問題ないようですけど、魔力制御の方は……。ふーん、まだ不十分なんじゃないかしら。クロード様、精進なさいませ。無尽蔵の魔力を制御できてこそ真の魔王ですわ」 「ま、まりょくせいぎょ……」 「魔力制御のできない魔王はただの暴君。今は当代魔王様や勇者や冥王に甘えてればよろしいかもしれませんけど、いつまでもそんなこと許されませんのよ」 「は、はいっ……。はいっ……」  クロードが下唇を噛んでこくこく頷いています。  プルプルする小さな肩を今すぐ抱きしめてあげたいけれど、これってメルディナなりの叱咤激励なんですよね……。  クロードも分かっているようで頷いています。  少し前までのクロードなら落ち込んでいたかもしれませんが、やっぱり少し成長したようですね。  こうしてなんだかんだありましたがガーデンパーティーは無事に閉会したのでした。
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