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「わたしもいっしょにつれてってください! おねがいします!」
「クロード……」
必死なクロードにゼロスは困ったように頭をかく。
ゼロスとしては連れていってあげたい気もするけれど……、どう思う? とイスラを振り返る。
「兄上、どうしよ。クロードこんなこと言ってる」
「冗談だろ」
「ハハッ、冗談だよね。クロード、残念だけど今日はお留守番」
「……いやですっ。いつもならつれていってくれるじゃないですか」
「その時は父上やブレイラも一緒だし、護衛もたくさんつくでしょ?」
ゼロスが説得したがクロードは拗ねてしまう。
でも今にも泣きだしそうな顔をしていて、ゼロスは苦笑してクロードの頬をツンツンした。
「そんな顔しないでよ」
「つれてってください」
「うーん、困ったなあ。兄上、どうする?」
「駄目だ。足手纏いだ」
イスラがきっぱり反対した。
創世期の冥界は気軽に遊びに行くような場所ではないのだ。
クロードもそんなことよく分かっている。分かっているけど、にーさま達と一緒に行きたいのだ。
クロードは少し恨みがましげな顔でイスラを見上げる。そして。
「……ブレイラはつれてったのに」
ぼそっと小声で言い返した。
クロードはイスラと目を合わせないようにしたまま続ける。
「ちちうえもごえいもいなかったのに、ブレイラが『おねがいします』っていったらイスラにーさまは『いいよ』って……」
「お前……」
イスラがじろりっと見下ろします。
イスラの眼力にクロードは怯みながらも勇気を振り絞る。
「ブレイラが『めいわくをかけてごめんなさい』っていったら、イスラにーさまは『おれがいるからだいじょうぶ』ってかっこよくいってた」
「…………。……見てたのか」
「みてた。めいかいはあぶないのに、ブレイラにはいいよって」
「………………」
沈黙するイスラ。
しゃがんで肩を震わせているゼロス。両手で口を抑えて必死に笑うのを耐えている。
五歳のクロードはブレイラと一緒にいる時間が長いのでいろいろ目撃するのだ。
「てんいまほうじんのまえで、イスラにーさまはニコニコしてブレイラとてをつないで」
「ああもう分かったっ。分かったからちょっと黙れっ」
イスラは頭を抱えて遮った。
人間の王である勇者イスラは歴代最強と名高い勇者で、勇敢さと強さと聡明さを兼ね備えた完全無欠のパーフェクト勇者である。……が、ブレイラには弱かった。
「兄上がニコニコっ……。プッ、アハハハハハハッ!!」
ゼロスが耐え切れずにとうとう噴き出した。
ゼロスも負けず劣らずのブレイラ大好きなのだが、今はいつも厳しい兄上のことなので笑ってしまう。
「ゼロス、なにが可笑しい」
「アハハハハッ! ご、ごめんなさいっ。でも、うぅっ」
ぎろりっと睨まれてゼロスは慌てて口を塞ぐ。
これ以上笑うと後でとんでもないことになりそうだ。必死で我慢だ。
こうしてゼロスを黙らせたイスラはまたクロードを見下ろした。
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