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「にーさま、さっきのしょうかんまほうじんでしょ?」
「ああ」
「わたしにもできるようになりますか? おしえてください!」
「また今度な」
「こんどっていつですか!」
「今度は今度だ」
イスラはうるさそうに眉間に皺を刻んでいるが、嬉しいクロードは足元をうろちょろだ。
そんなクロードにゼロスも笑顔になった。
「よかったね、クロード。冥界はまだ危ないとこもあるんだけど、頑張れそう?」
「がんばれます!」
「えらいえらい。それじゃあいこっか」
ゼロスがそう言うと足元に魔法陣が出現する。
転移魔法陣を発動したのだ。
魔法陣が発光し、クロードはリュックのベルトをぎゅっと握って気合いを入れる。
まだ覚醒していないけれどクロードは勇者と冥王の弟で、いずれ父上のような立派な魔王になるのだ。自分だってにーさま達の役に立てるはず。
こうして魔界から冥界へ転移した、次の瞬間。
――――ザシュッ!! ズサッ!! ドゴッ!!
ビシャッ……!
クロードの頬に鮮血が飛び散った。生臭いそれは返り血。
「っ、あ、ああっ……」
ぺたんっ。クロードは腰を抜かして尻もちをついた。
言葉がでてこない。悲鳴すらでてこない。転移したと同時に三体の巨大な猛獣が襲いかかってきたのだ。
しかしイスラとゼロスが間髪入れずに剣を一閃させ、たったひと振りで倒してしまったのである。
「に、にーさま……」
クロードは尻もちをついたまま呆然とイスラとゼロスの後ろ姿を見上げた。
イスラとゼロスは平然としたまま剣についた血を振り払う。
「ゼロス、これが冥界の出迎えか?」
「ごめんごめん、みんな血気盛んなんだよね。元気な証拠」
「なにが元気な証拠だ。冥王なら躾くらいしとけ」
「ええ~、それ僕の仕事なの? 絶対違うでしょ」
イスラとゼロスが軽口を交わしている。
クロードは腰を抜かしたまま見上げていることしか出来ない。
そんなクロードをゼロスが振り返った。
「クロード、大丈夫? ケガはない?」
そう言いながらゼロスがポケットからハンカチを取り出す。ハンカチを持ち歩くのはブレイラの教育の賜物だ。ゼロスは幼い頃からブレイラの言いつけは守るのだ。
「汚れちゃったね」
ふきふきふき。
ゼロスがクロードの頬についた返り血を拭く。
「ほら綺麗になった。立てる?」
「……た、たてます」
クロードはよろけながらも立ち上がった。
ゼロスは手を差しだしてくれたけど、だいじょうぶです……と一人で立ちあがった。せめてもの意地だった。
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