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「びっくりした? ごめんね、今日は兄上と二人だと思ってたから」
ゼロスはそう言って申し訳なさそうにクロードを見る。
しかしクロードはゼロスの言葉の意味に気付いて唇を噛む。
思うと今まで冥界へ来た時、先ほどのように突然猛獣に襲われたことはなかった。創世期は不安定で危険な世界だと知っているけれど、実際クロードが危険に晒されたことはなかったのだ。
理由は簡単である。今までクロードが冥界へ行く時はブレイラと一緒で、父上やにーさま達が事前に排除してくれていたから。
当たり前のように危険から遠ざけられ、今までそれに気付きもしなかった。
だからクロードの冥界の印象は創世期だけど家族の楽しい思い出しかない。家族で散策したり、貴重な原始の動植物を見学したり、まるでピクニックのようだった。
でも本来の冥界は、その楽しさが当たり前のものではなかったのだ。今まで分かっているようで分かっていなかったのだと思い知る。
黙り込んだクロードをゼロスが覗き込む。
「クロード?」
「……わたしは、びっくりしてません」
拗ねた口調で言い返したクロード。
ゼロスは「そお?」と目を瞬く。
「だいじょうぶですっ」
今度は強めに言い返した。
ここで怖がったら帰れと言われてしまうかもしれない。恐くないといえば嘘になるけれど帰るのはいやだった。
こうしてクロードはイスラとゼロスの冥界調査にくっついていくのだった。
◆◆◆◆◆◆
…………遅い。
…………遅いです。
私は城の裏山の麓で白馬に跨ってプルプルしてしまう。
側に控えている女官たちが「お、王妃様、落ち着いてください」と声を掛けてくれるけれど、ダメです。落ち着けません。だって私は待っているのにっ……。
「おい、ブレイラ。大丈夫か?」
ハウストが心配そうに声を掛けてくれました。
彼も愛馬の黒馬に跨っている。そう、私たちはこれから乗馬遊びをするのです。
それなのに。
「…………クロードが、クロードが来ません」
一緒に乗馬しようと約束したのに。
約束の時間になっているのに。
それなのに、待っても待ってもクロードがこの待ち合わせの場所に訪れる様子がないのです。
「……もしかして私たち、すっぽかされてます?」
「うーん……」
ハウストが呻りました。
薄々気づいていましたが、やはりすっぽかされているんじゃ……。
でも、でもクロードはそんなことをする子ではないのです。クロードだって私たちとの乗馬遊びを楽しみにしてくれていました。
でもその時、ピイイィィィ! 空に鳥の鳴き声が響きました。
見上げると一羽の鷲が旋回しています。それはイスラの召喚獣でした。
女官がすかさずグローブを差しだしてくれる。大型猛禽類用の保護グローブです。
片腕にグローブを装着すると空に向かって差しだしました。
「こちらへどうぞ」
そう呼びかけると鷲が大きな翼を広げて下降してきます。
私の腕に降り立つとずしりっとした重み。やっぱりイスラの召喚獣ですね。
私がグローブを装着するのを待っていてくれた鷲に笑いかけます。
「お待たせしました」
「ピィッ」
お利口なお返事です。
ハウストの鷹といい、イスラの鷲といい、召喚獣とはとてもお利口ですね。
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