698人が本棚に入れています
本棚に追加
「負けを認めましょう。今回のクロードの冥界行きは目を瞑ります」
「そうか、えらいぞ」
「次は負けませんから」
「ああ、また勝負しよう。楽しかったな」
そう言ってハウストはニヤリと笑う。
それに私もなんだかくすぐったい気持ちになります。
「……実は私も。いけませんね、私たち不謹慎です」
「たまにはいいだろ」
「ふふふ、またしましょうね」
クロードを連れ戻すか否かの真剣勝負だったのに楽しんでしまいましたね。
こうして私たちは競争を楽しむと馬を降りました。全力で走ってくれたので少し休ませてあげなければ。
馬用の水筒から水を飲ませてあげます。
私を乗せていた白馬はゴクゴク水を飲んで、よしよしと撫でると鼻先を寄せてくれます。ハウストも自分の愛馬に水を飲ませていました。
私たちは馬を引きながら丘に並び立ちます。
高い丘からは広大な王都を一望できました。
丘から眺める王都にはたくさんの建造物が建ち並び、整備された通路や河川が伸びています。そこには数えきれないほどの魔族の営みがあるのですね。
私は隣に立っているハウストの横顔を見つめました。
王都を見つめるハウストの鳶色の瞳は優しさを帯びている。あなた、愛しているのですね。
あなたはすべての魔族の保護者です。あなたはすべての魔族を愛し、寛大な心で見守っている。私はね、そんなあなたの横顔が大好きなのですよ。
「どうした?」
視線に気付いたハウストが振り返ります。
私は誤魔化すように首を横に振りました。
「なんでもありませんよ。それより、せっかくですからもう少し散歩しましょう」
「そうだな。デートか」
「ふふ、デートです」
私は小さく笑ってハウストの腕に手を掛けて寄り添います。
冥界へ行ったクロードの心配は尽きないけれど、イスラとゼロスが一緒にいるのできっと大丈夫。帰ってきたらおかえりなさいと出迎えて、心配したのだと伝えて、でもその後はお茶を淹れて冥界での出来事をたくさん聞かせてもらいましょう。きっとクロードはたくさんお話ししてくれますから。
こうして私とハウストは午後のひと時をデートしてすごしたのでした。
◆◆◆◆◆◆
「…………え、ほんきですか?」
クロードはごくりっと息を飲みこんだ。
目の前には高い高い絶壁の崖。
そう、今から崖登り。冥界に来て最初の難所にぶちあたっていたのだ。
しかし難所だと思っているのはクロードだけで、イスラとゼロスは平然と話しあっている。
「この先にもあるのか?」
「うん、この崖の先に一つ目のを見つけた。それほど大きな鍾乳洞じゃないんだけど、兄上も見に来てよ」
ゼロスが冥界で発見した不審な鍾乳洞の説明をしている。
やはりこの崖を登るらしい。
クロードが青褪めて崖を見上げていると、ゼロスが声を掛けてくる。
最初のコメントを投稿しよう!